カツラでないとしても、ボソボソの金髪(米国内では「トウモロコシのひげ」という表現をする人もいる)には疑問も多い。いくつもの写真を分析してみると、ツヤもなければ、真っ直ぐでもない、枯れた切れ毛のような髪の毛を、何とか前に持ってきて厚みを出し、スプレーで固めていると見られる。確かにこれではかき乱されると困るはずだ。

 この「サンバイザー・ヘア」に関する論争についても、トランプ氏は有利に活用している。本来ならば隠したい自らの弱点ともなる髪の毛をさらけ出せば、多くの人は親近感を抱く。自分から相手に近づき、直接触れさせて物理的かつ心理的な距離を縮めて警戒心を解き、コミュニケーションを生んだわけだ。この特殊な髪形も、オレンジ色の肌と同じように、人々の関心を「加齢」からそらせるには十分な効果がある。

 最も加齢が出やすい肌と髪。トランプ氏は一見奇抜とも思える戦略で、巧みに「老化」から人々の意識をそらせている。

スーツの前ボタンは留めず、若々しさを演出

 トランプ氏の振る舞いを分析する上で「正式には」とか「通常は」といった言葉は通用しない。最も象徴的なのはスーツの着こなしだ。

 彼はスーツ着用時、常に上着の前を開けっ放しにしている。どんな映像や画像を見てもジャケットのボタンを留めることなく、ジャケットの前が全開でネクタイはぶらぶらとしたままだ。大統領選後、日本の安倍晋三首相がいち早く実施した会談でもジャケットは開いたままだった。本来、上着の前ボタンは留めているのが基本で、着席時だけ外してもいい(外さなくてもいい)。

 裕福な家庭に育ち、一流のビジネスパーソンであるトランプ氏が、こうしたスーツ着用時のルールを知らないはずはない。それでも彼がジャケットを開けっ放しにする理由は何か。その着こなしによって彼は「型にはまらない」かつ「動きがある」というところを演出していると、私は分析している。

 上着がたなびく様子からアクティブな印象を植え付けたいのかもしれない。事実、忙しく動き回るビジネスパーソンの中にはジャケットをひらめかせている人がいるのも確かだ。

 一国のリーダーとしてどうなのかという疑問は残る。それでも年齢を感じさせないアクティブさを印象付ける効果は大いにあるだろう。その昔、ロナルド・レーガン氏が大統領選に出馬した際には、遊説先の空港で小走りに飛行機のタラップから下り、69歳という年齢を感じさせない若々しさを聴衆に印象付けた。

「現役感」でヒラリーに挑んだ

 同じようにトランプ氏も粗野に見える懸念はあるけれど、それ以上にアクティブな演出ができるよう、ジャケットのボタンを留めていないのではないだろうか。ここにも、「70歳」という実年齢を感じさせない演出が潜んでいる。

 またトランプ氏は、70歳の割に姿勢は悪くない。動きも軽快で、十分に「現役感」を演出できる体だ。そして彼のジェスチャーは、強烈な発言ややんちゃ坊主のような表情ともうまく連動している。

 振る舞いや姿勢で若々しさを維持できているのであれば、前述した「肌(顔)」や「髪」の老化をいかにカムフラージュして、話題をそらすかが何よりも重要になる。「装い」によってアクティブさを演出することも重視してきたのであろう。

 トランプ氏は、こうした見た目の戦略において「大統領としてふさわしく、好感度があり、国民の信頼を得て、品性があるか」を演出することは二の次、三の次にしてきた。かつて若く精悍なジョン・F・ケネディ氏が、経験はあるけれど年を取ったリチャード・ニクソン氏に勝利し、米大統領となったのは有名な話だ。

 それと同じように、トランプ氏はとにかく「現役感」を演出し、ほぼ同年齢のヒラリー・クリントン氏と戦って勝った。イメージ戦略としては大成功と言えるだろう。

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