13日、東京・有明の展示場「東京ビックサイト」でイベントを開催し、新型ゲーム機「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」を3月3日に2万9980円で発売すると発表した任天堂。良い意味で、「任天堂がヘンなものを出してきたぞ」とワクワク感を抱かせる発表会だった。ただしその源泉は、ネーミングの由来にもなっている、シーンによって遊び方を「スイッチ(転換)」できることではない。
13日、任天堂の君島達己社長はニンテンドースイッチの発表会冒頭に登場、発売日と価格を発売した(撮影:陶山 勉)
新型機最大の特徴は、「持ち運べる据え置き型」。本体は6.2インチのタッチスクリーンやスピーカーと一体となっており、テレビに接続して従来の据え置き型のように遊べる一方、本体をドックから外し、容易に持ち運び、携帯型ゲーム機のように楽しむこともできる。
プレイスタイル紹介映像(YouTube)
この日の発表会では発売日や価格のほかに、対応タイトルなどの発表も相次いだ。これが失敗したらもう次はない、という気合いと覚悟で臨んだのだろう。ソフトが続かず苦戦したWii Uの反省からか、現在開発中の対応タイトルは80以上と潤沢。ゲーム好きの「コアゲーマー」がソニーやマイクロソフトのゲーム機へと流れた反省を生かしてか、コアゲーマーを意識した品揃えと演出も目立った。
発表会開始前の演出はDJがテクノ音楽を奏で、レーザー光線を多用するなど、スタイリッシュでクール。「ゲーム人口拡大」戦略を強調し、ファミリーや子ども向けの演出が目立った従来とは趣が異なる。
任天堂自身もスイッチ?
任天堂が用意する同時発売のソフトのタイトルも、人気ゲームシリーズ「ゼルダの伝説」の新作や、新手の格闘ゲーム「ARMS」などが並び、コアゲーマーを強く意識している。Wii Uでヒットした「スプラトゥーン」の続編を今夏に、冬には「スーパーマリオ」の最新作を発売予定で、ゲーム好きには骨太に映るラインナップだ。
外部のサードパーティーも骨太。既に世界有数のゲームスタジオ、米ベセスダの参入が発表されており、コアゲーマーを沸かせている。2015年11月に発売された「Fallout 4」は初日の出荷が1200万本に達するなど、同社はゲーム業界を左右する存在となっているが、Wii U向けには1つもタイトルを提供していなかった。今回のベセスダ参入は、任天堂がコアゲーマー向けに注力した象徴とも言える。
過去の轍は踏まないと任天堂自身も"スイッチ"した印象。ただしこれだけでは、「任天堂はマイナスを潰しただけ」と映り、インパクトは小さい。
スイッチの目玉と言える「持ち運べる本体」も、昨年10月の発表時、さほど世間に驚きを与えなかった。画面付きコントローラーが目玉だったWii Uの延長線上のように見えてしまったからだ。価格も安いわけではなく、高くもない無難なライン。そのためか市場も落胆の色を隠さない。発表日、任天堂の株価は前日比5.75%安と値を下げた。
しかし。それでもスイッチに、何か革新的な出来事を起こしそうな可能性や匂いを感じた。それを醸すのは、スイッチする本体ではなく、コントローラーである。
13日は、コントローラーが赤青2色のカラーバリエーションも発表された
「スイッチは、コアゲーマーを満足させられるゲーム機ではあるが、最先端のグラフィック技術が詰まったマシンではない。あくまで、新しい遊びを追求するマシン。あのコントローラーがそれを物語っている」
ゲーム雑誌「ファミ通」を発行するカドカワの浜村弘一取締役は、こう話す。
13日の発表会では、「Joy-Con(ジョイコン)」と呼ばれる着脱式コントローラーの詳細も明らかとなった。小型ながら、動きを検知するモーションセンサーを内蔵するコントローラーは、それだけではなく、様々なギミック(仕掛け)を内包する。任天堂がプレゼンテーション映像の中で最も強調していたのが、今回、家庭用ゲーム機としては初めて導入する「HD振動」という機能だ。
コントローラーが振動すること自体は古い機能で、多くの家庭用ゲーム機が取り入れている。ただし、スイッチのそれは違う。プログラミングによって複雑で微細な振動を自在に表現できる。中の小型モーターが回転し、携帯電話のようにブルブルと振動する従来機とは異なるのだ。
デモ映像では、ニンテンドースイッチ総合プロデューサーの小泉歓晃氏が自ら、スイッチの「HD振動」を解説した
例えばデモ映像では、コントローラーを縦に持ち、揺らすと、まるでグラスの中の氷が「カラン、カラン」とぶつかりあうような振動を伝えられるとしていた。振動ではなく「触感」。音や映像が合わされば、本物のグラスを握っているような感覚が得られるとする。
「HD振動は、VR(バーチャル・リアリティー=仮想現実)技術の一環としても研究開発が進められているもの。コントローラーの振動を体験に変えるもので、これは感動する技術」。前出の浜村取締役はこう捕足する。習うより慣れろ、ということで実際に体験した。
「1-2-Switch」という新感覚の体験
体験会の会場に入ると、まず目の前にドンと大きなセットが飛び込んでくる。「1-2-Switch(ワン-ツー-スイッチ)」という、スイッチと同時発売される任天堂のタイトルを試遊できるブースだ。
コントローラーのギミックを生かした様々な新しい遊び方のミニゲームが詰まったパッケージで、まずはHD振動を確かめるために、「カウントボール」というミニゲームを選択した。行列に並び約1時間半、ようやくブース前に辿り着くと、説明ビデオが流れ、解説している。
「1-2-Switch」のミニゲーム、「カウントボール」を説明するデモ映像
「ジョイコンを傾けると箱の中に玉が入っているような振動が伝わります。その振動を頼りに玉の数を当てましょう」。実際にコントローラーを持ち、シーソーのように傾けると、確かにパチンコ玉のようなものがコントローラーの中でいったり来たりする感触があった。しかも、コツン、コツンと何個か入っている。予想した個数の分、スティックを押し、置くと正解がスイッチの画面に現れる。
ブースにいた対戦相手の役者は「4」、記者は「3」と予想。正解は「2」だった。とてもリアルな感触だが、とても微細なので、当てるのが何とも難しい。時間制限が迫ると焦って勢いよく傾けてしまい、それがさらに予想を困難にする。地味だが新鮮な体験だった。
新手のコントローラーとワン-ツー-スイッチによる新感覚の体験はこれにとどまらない。
ニンテンドースイッチの体験会は14~15日の週末も一般向けに開催され、各所で数時間待ちの行列ができた
「ミルク」というミニゲームは、牛の乳搾りをして、その量を競うゲーム。ジョイコンを乳首に見立て、握る。上から下げながら、同時に指も折ってボタンを押して絞る。すると先のHD振動により、まるで乳がぴゅーっと噴出しているような感触を感じることができた。
「モーションIRカメラ」を説明するデモ映像の1コマ。動きや物体までの距離などを検知することが可能
ジョイコンの先端には「モーションIRカメラ」という赤外線カメラも仕込まれている。これを活用したミニゲームが「イーティングコンテスト」、つまり大食い競争ゲームだ。ジョイコンをホットドックに見立て、口の前に置き、ひたすら口をぱくぱくする。その動きをカメラが検知し、食べた量を判別する。
ワン-ツー-スイッチには、かつての「Wii Sports」のように、コントローラーを振り回して遊ぶ卓球ゲームや、相手の動きをいかに上手にマネするかを競うダンスゲームなども収録されている。
こうしたミニゲーム自体が革新的だと言うつもりはないし、ゲームソフトとして大ヒットするような類のものでもない。あくまでジョイコンを使った新しい遊びを紹介する「ショーケース」。だが、今後何か斬新な遊びの提案が出て来るかもしれない、という可能性を感じさせるに十分なものだったと言える。
ジョイコンには、ほかにも電子マネーなどで使われている非接触ICの「NFC機能」もある。これらジョイコン内蔵のギミックにタッチスクリーンが合わされば、無限の新たな遊びを提案することができるだろう。
そして、一連のミニゲームを通じて、少なくとも、「画面を見ないテレビゲーム」という斬新さも発見できた。大勢が集まるパーティー会場など、これまでビデオゲームが進出し得なかった場所やシーンでも活躍するかもしれない。
出落ちで終わったWii U
ハードの性能や分かりやすい機能を前面に押した時、往々にして任天堂は爆発力を発揮できない。「3DS」では「立体視」、Wii Uでは「画面付きコントローラー」がそれに当たる。言い換えれば、ハードの仕組みそのものに驚きを求めた場合は、「出落ち」で終わり、爆発力を生まない。
スイッチも、仮にコントローラーのギミックがなく、単に持ち運べる据え置き型ゲーム機だったら、Wii Uや3DS同様、出落ちパターンに陥るかもしれない。しかしスイッチは、前述のように、何か得体のしれない要素や可能性、余地を残している。
スイッチは革新的なのか。まだ現段階でそうと断言することはできない。しかし、何やらDSやWiiと似た雰囲気を感じるのだ。
ハードとソフトが一体となって、新たな娯楽体験や驚きを消費者に与えることが任天堂の本分。かつての「脳トレ」や「Wii Sports/Fit」のようなソフトがあって初めて、爆発力を生むことになる。それを一番よく知っているのは任天堂自身。ジョイコンのギミックを生かしたキラーソフトの開発は、既に始まっているに違いない。
任天堂がスイッチでコアゲーマーへ近寄ったのも事実だろう。だが、「驚きを生む」という、任天堂の不文律でもある娯楽屋の矜持は失っていない。それがジョイコンのギミックであり、ワン-ツー-スイッチに現れている。
その意味で、スイッチは極めて任天堂らしく、そして新しい。
「スイッチは昔から変わらぬクラシックな任天堂そのものであり、それでいて全く新しい何か」。ベゼスダゲームスタジオの著名プロデューサー、トッド・ハワード氏も、発表会で流れたビデオメッセージでこのように語っている。
体験会でひときわ大きく目立つ場所に設えてあったワン-ツー-スイッチのブース。「ゲーム人口拡大は、まだまだ諦めていませんよ」。スイッチの開発に携わり、道半ばで逝去した岩田聡前社長のメッセージを感じたような気がした。
2015年7月に逝去した岩田聡前社長。写真は同年3月にインタビューに応じた時のもの(撮影:小倉正嗣)
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