実用化が近づくクルマの自動運転。国内で売られる新車の多くに衝突軽減ブレーキ(自動ブレーキ)が搭載されるようになり、ドライバーの多くがその効果を実感できる環境が整いつつある。
ただ、新しい技術の普及を進めるには、そのメリットを具体的に示すことが欠かせない。分かりやすいのが費用面の効果だ。自動ブレーキなどを搭載することによるコスト増は、いかにして回収可能なのかを示すことがカギになる。p>
例えばハイブリッド車はガソリン代などで計算することが可能で、自動車メーカーも消費者にアピールできた。安全技術で最も分かりやすいのが、自動車保険の料金だ。新しい技術によって事故のリスクまたは事故時のダメージが減らせれば、理論上は保険料を引き下げることができる。
スマホアプリ上で運転スキルを診断し、安全運転を促す
損害保険ジャパン日本興亜はこの1月から、ドライバーの安全運転を指南する無料のサービス「ポータブル スマイリングロード」の提供を始めた。対象は同社の自動車保険の契約者。利用希望者はまず、スマートフォンに専用のアプリをダウンロードする。
スマホから得られる加速度などの走行データをデータセンターで分析し、「加速」「減速」「ハンドリング」「エコ」の4項目でドライバーの運転を評価。事故時などにすぐに損保ジャパン日本興亜の相談窓口につながる機能も備え、ナビゲーション関連事業を手がけるナビタイムジャパン(東京都港区)と連携し、最適なルートや渋滞などの道路情報も提供する。
同社は2015年3月に企業向けに同様のサービスをリリースしている。企業向けは専用のドライブレコーダーを車両に搭載し、そこから得られたデータを収集・活用することで、平均して約20%の事故削減効果が出ていると言う。
個人向けでも安全運転を促すことで事故の減少を期待している。サービスの利用者向けに割安な保険を提供するわけではない。ただ、日本の自動車保険は年齢や事故歴に応じた「等級」で保険料が決まる仕組みとなっているので、「サービスの利用者の負担が結果として下がることが期待できる」(損保ジャパン日本興亜)と言う。
損保ジャパン日本興亜では今年8月からは、自社の保険契約者以外にもこのサービスを無料で開放する予定だ。カーシェアリングの普及などで、自動車を保有しておらず、自動車保険に加入していないドライバーも増えている。そうしたドライバーや競合他社の契約者との接点を持つことで、新たな顧客獲得にもつなげようとしている。
チューリッヒ保険会社(東京都中野区)もこの1月から、自社の保険契約者向けに、カメラやセンサーなどを搭載したドライブレコーダーを提供し、急ブレーキなど事故につながりやすい運転を音声で注意喚起するサービスを始めた。
実際の走行データを記録・分析し、それを保険料金などに反映する自動車保険はこれまで欧米を中心に普及が進んできた。ただ、日本では法人向けや特定の通信機能を持つクルマ向けなど一部にとどまる。
安全運転支援を売りにする保険が日本でも生まれてきたのは、自動運転の実用化に必要な制度や法律などの整備が進んできたこととも関係している。
国土交通省は自動ブレーキを搭載したクルマの被害軽減の効果を検証し、クルマの安全性の評価につなげる制度をスタートする予定。そうした公的な「格付け」がスタートすれば、保険各社の保険料にも反映しやすくなる。
事故のリスクが低いクルマの保険料が安くなれば、自動ブレーキなどを搭載したクルマの普及の起爆剤ともなる。「安全運転支援」を巡る保険各社の新たなサービス合戦は、来たるべき自動運転時代の前哨戦とも言える。
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