家電ベンチャー、バルミューダ(東京都武蔵野市)は1月12日、電気炊飯器「BALMUDA The Gohan」の発表会見を都内で開いた。同社では2015年に売り出したトースターが大ヒット。寺尾玄社長はこれまで、「売りたいのはトースターではなく、美味しいトーストを食べるという体験」、「消費者はモノにカネを払うのではなく、体験にカネを払う」などと話し、「モノからコト」への消費者心理を巧みにすくい上げてきた。
バルミューダが2月下旬から販売する電気炊飯器「BALMUDA The Gohan」。同社のキッチン家電としては、トースター、電気ボットに続く3商品目だ(写真:バルミューダ)
その流れの延長で、満を持して開発した炊飯器を前に、寺尾社長が言い放ったのは「これはただの道具ですよ!」。その真意はどこにあるのか?そして、その炊飯器で炊いたご飯はおいしいのか。その実力を、土鍋派の記者が判定する。
「土鍋よりおいしいご飯を実現せよ」
バルミューダの寺尾玄社長。期待の新製品発表会に気合いが入っていた
寺尾社長も自宅ではずっと土鍋でご飯を炊いていたという。開発陣への注文は「土鍋よりおいしいご飯を実現すること」。ガスの直火で炊くご飯は電気炊飯器で炊くよりもおいしいとされ、「土鍋派」もそれなりに存在する。ただしガスコンロが一口占領されてしまったり、途中で火力調節が必要だったり(最近では勝手にやってくれるガスコンロもあるが…)と、不便さも伴う。寺尾社長からの命題に、開発チームは商品化まで18カ月を費やした。同社の製品の中で最も長い期間をかけ、試行錯誤を繰り返してきたという。
日本の電気炊飯器の実力は中国からの旅行客がお土産によく買っていくことからも分かる。主力商品の炊き方はIH(電磁調理器)によって内釜を発熱させたうえ、発生した水蒸気を閉じ込めて高圧にし、沸点を高める「圧力IH式」が多い。また内釜には発熱性が高い素材を使った分厚いものが主流となっている。
これに対し、バルミューダの炊飯器は蒸気で炊き上げる方式を採用した。内釜を直に熱するのではなく、釜を二重にして、釜と釜の間に200ccの水を入れ、その沸いた水から出る蒸気によって内釜を熱くし、コメを炊く仕組みだ。圧力IH式は内部の温度が110度程度まで高まるが、バルミューダ製は100度を超えないように設計した。「煮物を沸騰した中で調理すると煮崩れするように、コメも沸騰する中で炊くと崩れてしまう」(開発を担当した唐澤明人氏)からだ。これによって、張りのある、食感の良いご飯が炊けるようになったという。
左が開発を担当した唐澤明人氏。本職はプログラマーだが、今は米研ぎ名人になったという
炊飯容量は3合炊きの1種類。なぜ3合炊きなのか。寺尾社長は「蒸気による炊飯は3合以上ではまだおいしく炊くことに成功していないから」と正直に明かす。タイマーこそ付いているが、保温機能はない。「味が落ちてしまうから」(同)で、おいしいご飯にこだわるが故のシンプルな設計にしたわけだ。価格は4万1500円(税抜き)だ。
炊き上がったご飯について、寺尾社長は「張りのある食感」「べたつきのないほぐれ感」「抜けるような香ばしさ」「透明感のある味わい」と表現する。一体、どんなご飯なのか。自宅では土鍋で炊き、それなりにこだわってきた記者も自ずと期待が高まる。記者会見後に設けられた試食会場に向かった。
白いご飯は「うーん」。でもTKGはおかわり
炊き立てのご飯が入った炊飯器が到着し、茶碗に一膳ずつ配られる。「まず、そのままで一口どうぞ」というスタッフの掛け声とともに、口に運ぶ。うーん。おいしいけど、何だか少し固いなぁ。これが「張りのある食感」なのか?新米のみずみずしさと甘さが大好きな記者にとっては正直、「すごくおいしい」とは思えなかった。
この日の試食会では、白いご飯のほかおにぎり(小)も1つ食べた。それでもおかわりするほど卵かけご飯(TKG)はおいしかった(写真:バルミューダ)
しかし、その印象が一変したのは、卵かけご飯(TKG)を食べた時だ。表面に張りがある分、溶き卵とうまく調和して、口の中で次々とお米がほぐれていく。こんなTKGは食べたことがない。これはうまい。思わずうなった。普段は糖質制限でご飯は控えめにしている記者だが、ついおかわりしてしまった。
試食後、寺尾社長に「どうでした?」と聞かれたので、正直に「ご飯だけの時はどうかな、と思いましたが、卵かけご飯はおいしかったです」と答えた。すると「そうなんですよ!この炊飯器で炊いたご飯は食事に合うんです」と寺尾社長。おいしいご飯はおかずがなくてもおかわりできると言うが、このご飯はおかずと一緒に食べるとおいしさが際立つのだという。寺尾社長は「この炊飯器は、おいしい食卓を実現するための道具にすぎないんですよ」と言った。炊飯器を買うことが目的ではなく、おいしい食卓を体験したいからこの炊飯器を買う、という消費者向けの炊飯器なのだ。
レトルトカレーの発売も計画中
バルミューダはレトルトカレーの発売も計画中とか。「今夜はカレー、と聞けば、家族みんなが嬉しくなるでしょ?だから売り出したいんです」(寺尾社長)。これも単にカレーを売るのではなく、家族の楽しい食卓を実現するための道具として発売する考えだ。
この日の会見にはおよそ200人の記者が集まり、大変な盛況だった。大手家電メーカーが炊飯器の新製品を発表しても、ここまでは集まらないだろう。バルミューダの売上高は2015年に29億円、トースターの大ヒットで16年には55億円に跳ね上がったとはいえ、大手に比べたら、まだごく小さな存在だ。そんなベンチャーの挑戦が、縮小する一方のコメ消費に歯止めをかける可能性があるとすれば、なかなか面白い。
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