ただでさえシリア反体制派はまとまりが悪く、一致団結して和平プロセスに臨むのが困難な状況だ。加えて、サウジが支援するアッルーシュ氏が殺害されたことで、反体制派はますます不利な立場に置かれることになった。それにもかかわらず、シリア和平プロセスは1月下旬にスタートする予定である。この状況をサウジ政府が面白く思っているはずはない。

米国はサウジに圧力ばかりかけてくる

 対IS作戦をめぐっても、欧米諸国が最近、サウジアラビアをあからさまに批判するようになっていた。特にドイツによるサウジ批判が目立つ。ドイツの情報機関BNDが昨年12月2日に、サウジアラビアの体制の先行きへの不安を示す「異例」の発表を行った。12月6日にはドイツの経済相が「サウジアラビア政府は宗教過激主義者に対する資金提供を停止すべきだ」と公言した。

 同時期にオバマ政権も、対IS作戦へのサウジアラビアの取り組みが不十分だとするコメントを多く出すようになった。カーター米国防長官は、「イランがこの地域でやっていることは面白くないが、彼らは少なくとも戦場に人を送りゲームに参加している。それに引き換え湾岸アラブ諸国は3万フィート上空にいるだけだ。彼らは効果的な特殊部隊を作ったり派遣したりすることよりも、最新の戦闘機を購入することにばかり興味があるようだ…」と述べた。サウジを名指しこそしなかったものの、対IS作戦に実のある貢献をしないサウジアラビアに対する批判を強めた。

 サウジ政府が対IS作戦に消極的に見えるのは、スンニ派過激派であるISよりも、イランや彼らが支援するシーア派諸勢力の方がはるかに大きな脅威と考えているからだ。シリアでISだけを弱体化させてもアサド政権や同政権を支えるイランを利するだけ。またイラクでISを倒しても、ISが支配するスンニ派地域を、イランの「代理勢力」であるイラクのシーア派勢に取られるのであれば、結果としてイランの影響力が拡大するだけである。

 サウジ国内のスンニ派保守派の中には、ISやアルカイダに同情的な人も多くいる。このため、イランを利することになる対IS作戦に本腰を入れることは、内政面においてもサウジ政府にとってメリットはない。

 米国はイランとの核合意を進めることや対IS作戦でイランの協力を得ることを優先させており、サウジには圧力をかけてくるばかりで、サウジの国益は軽視されている――サウジ政府がそのように考えても不思議ではないだろう。

イランの「機嫌を取る」米国への牽制

 オバマ政権は昨年12月30日、米議会に対し、イランの弾道ミサイル開発をめぐる新たな対イラン制裁の発動を延期すると発表した。米議会やホワイトハウスに対するロビー活動を展開していたサウジ政府は、またしても敗北感を味わった。敵対するイランが、弾道ミサイルをいくら発射しようが米国はイランに圧力をかけることはない。間もなく対イラン制裁は解除され、彼らは国際社会に正式に「復帰」することになる。

 イランはますますパワフルになり、シリアのアサド政権、イエメンのフーシー派、イラクのシーア派政権、それにバーレーンの反政府勢力やサウジ国内のシーア派反政府勢力に対する支援を拡大させるに違いない…。サウジがこのように猜疑心と危機感を募らせたとしても不思議ではない。そしてこのような国際環境が出来上がっていくことに対して、何もできないサウジ政府に対する国内の不満が強まるリスクも高まる。