体制維持に最も重要なスンニ派の保守勢力の不満を和らげるために、イランとの対立を煽ることは、少なくとも短期的には現サウジ政府の利益に適っている。国内政治の文脈で今回のサウジ政府の行動を見ると、増大する国内の不満をサルマン体制に向かわせるのではなく、外に向けさせる狙いがあった、という推測が成り立つであろう。

米主導のシリア和平プロセスへの不満

 次に現在サウジアラビアが置かれている戦略的な状況を国際政治の文脈からみてみよう。

 「サウジには事前に米政府の懸念を伝えていたが心配した通りの結果になった。(サウジとイランの対立は)米国の国益に打撃を与える」。アーネスト米大統領報道官は1月4日の記者会見でこう述べた。オバマ政権は不満を露わにしている。

 今回のサウジの行動は、米国から見れば最悪のタイミングだった。オバマ政権が最も懸念しているのは、シリア和平プロセスへの影響であろう。

 昨年12月18日に国連の安全保障理事会が、シリア内戦の終結を目指す決議を全会一致で採択した。米国が主導してまとめたこの決議は、今年1月に国連の仲介でアサド政権と反政府勢力の対話を実現し、6カ月以内に各宗派などが参加する統治体制を発足させ、新憲法制定の手続きを始め、18カ月以内に国連による監視の下で民主的な選挙を実施するという内容だ。

 この決議では、ロシアと、米欧やサウジアラビアとの対立を先鋭化させないため、米国がロシアと妥協して「アサド問題」を棚上げにした。ロシアはアサド大統領を支持している。一方、米欧やサウジは、アサド大統領の退陣を和平交渉の条件としてきたシリア反政府勢力を支援してきた。

 ここでロシアに歩み寄ったのは米側だ。オバマ政権はこれまで、アサド大統領が暫定的に残留することにも反対していた。にもかかわらず、この安保理決議の直前にモスクワを訪れたケリー国務長官は、「シリアで体制転換(レジーム・チェンジ)を目指さない」と明言し、「シリアの将来はシリア人自身が決めること」に同意した。

 アサド退陣を条件とする反体制派を支援してきたサウジアラビアが、この流れに不満を募らせていたのは間違いない。サウジアラビアはこの国連安保理決議に先立つ12月9、10の両日、シリア反体制派の主要勢力をリヤドに集めて会合を開催。来る和平プロセスに向けて分立する反体制派の結集をはかり、アサド政権側と協議をするための統一組織づくりを目指した。

 会議に参加した反体制派組織は、「内戦終結に向けた移行政権にアサド大統領が参加することは認めない」として、和平プロセスの条件としてアサド大統領が退陣することを改めて要求した。

 ところが、12月25日にシリアのアサド政権軍(もしくはロシア軍)が「イスラム軍」の秘密基地を空爆した。「イスラム軍」は反体制派の一つでサウジアラビアが支援している。この空爆で、ザフラーン・アッルーシュ指導者を含む「イスラム軍」の幹部が殺害された。アッルーシュ指導者はリヤドで開催された反体制派の会合にも出席していた反体制派の有力者の一人だ。その人物がアサド=ロシア=イラン連合に抹殺されてしまったのである。