2009年、中台は互いの市場開放を進める基本原則として「経済協力枠組み協定(ECFA)」を締結した。早期実現項目として挙げられた分野については、すでに関税が廃止され、貿易が自由化されている。立法院占拠の引き金になったサービス貿易協定もこのECFAの下に締結されたものであり、やがて物品貿易に関する協定もECFAの下に締結される予定になっている。

 サービス貿易協定も含め、ECFAの基本精神は「不平等協定」と言っていい。中国が台湾に市場開放する分野の方が、台湾が中国に開放する分野よりも多い。つまり、台湾に進出する中国企業が得るものよりも、中国に進出する台湾企業が得るものが大きい。単純に言い換えれば、台湾に有利で、中国に不利に設計されている。

 むろん、中国にとっては戦略的な譲歩だ。ECFA締結当時の中国・温家宝(ウェンジーバオ)首相は「台湾に利益を譲る」と発言している。米国が台湾に武器をもたらすように、今や中国は経済的な「利益」を台湾にもたらしている。

 中国から台湾への2013年の輸入額は406億5000万ドル(約4兆1310億円)。台湾から中国への輸入額は1565億1200万ドル(約15兆9056億円)。中台貿易におけるこの明らかな不均衡は、いわば中国から台湾への贈り物なのだ。

 中国は、経済力を背景に軍事力も増強させている。2013年10月、台湾国防部は『防衛白書』の中で、中国・人民解放軍は、近代化に伴い「台湾を防衛する外国勢力を阻止できるような包括的軍事力を2020年までに備える」との見通しを明らかにした。外国勢力が米国を指すことは言うまでもない。

 経済成長に伴い、アジアにおける存在感を増す中国と、その座を奪われる米国。オバマ大統領が「アジア旋回」を言わなければならない現実の最前線が、ここ台湾と言っていいだろう。

民進党の圧勝で、中台関係は?

 急速に進めた中台接近外交に対する台湾市民の不満が「立法院占拠」で爆発し、国民党は支持を失って民進党の飛躍を許した。民進党が国民党ほどに対中関係に積極的でないことから、政権交代によって中台接近の歩みが滞ると見る向きもある。

 だが、民進党が支持を集めた背景には、「一辺一国(中台はそれぞれ独立した国である)」などの国家観を打ち出すことをやめて「独立」志向を弱め、対中政策において現実路線を選ぶ姿勢を見せたことがある。対中政策で急進性を失ったことが、有権者に「安心感」をもたらしたのだ。もはや対中独立を明言する政治勢力は、多数の議席を確保できない小政党のみ。二大政党の振幅は、「独立」と「対中融和」にあるのではなく、「緩やかな対中融和」と「急速な対中融和」になる、と見ることもできる。

 中台融合によるアイデンティティの喪失や経済的な併呑を恐れる一方で、東アジアの超大国として台頭する中国を敵に回したくはない。前者の感情がやや優位になれば民進党が勝利し、後者が優位になれば国民党に支持が集まる。台湾民意は、この往復運動の中で3度目の政権交代を実現させた。民進党から生まれた初の女性総統は、その機微のうえで中台関係の難しい舵取りを担うことになる。

(日経ビジネス2014年6月9日号より転載、一部変更)