1月16日、台湾総統選挙が投開票され、民進党の蔡英文が国民党候補を圧倒した。8年ぶりに政権が交代する。

台湾の民意は、中台関係という現実の上に、二大政党を往復しながらバランスを取り続けてきた。台湾の民意は、なぜ民進党に勝利を与えたのか。その源流をたどるために、2014年3月に台北市で起きた騒動と中台両岸史を振り返ろう。

(写真=的野 弘路)

 それは、きわどく小さな僥倖から始まった。

 偶然が生んだこの事件が、台湾・中国両岸を揺るがせ、その関係史を書き換えることになるとは、はじめ誰も考えていなかっただろう。

 2014年3月17日、台湾・台北市にある立法院(国会に相当)では中国・台湾間で締結された「中台サービス貿易協定」を批准するための委員会審議が進行していた。民進党などの野党が体を張って議事の開始を妨害するのに業を煮やした与党・国民党は、「審議時間切れ」を理由に、わずか30秒間で審議を打ち切って強行採決を図った。

 同協定は、中台が互いにサービス産業分野で市場を開放することを定めたもので、2013年6月に締結された。事実上の中台FTA(自由貿易協定)だ。

 この協定により、台湾企業は中国市場開拓の機会を広げられる。一方で、台湾内の中小サービス業が大資本のチェーンストアに駆逐されたり、出版業者が中国資本に支配されることで論調を制御されたりすることを懸念し、締結に反対する人も多かった。

 この3月中旬に実施された台湾指標民調による世論調査によれば、「同協定を支持する」と考える人が31.6%、反対する人はそれを上回る44.5%。この「民意」にもかかわらず、同じく「民意」によって立法院議席の多数を占めた与党が批准を強行しようとしている。民主主義の仕組みに否応なく生じるこの陥穽に、台湾の学生たちは危機感を募らせた。