地球温暖化の影響からか、平均気温は徐々に上昇している。冬本番を迎えたが、「暖冬」と呼べる日々が続く。ところが、温暖化が進んだとしても、単純に降雪量が減るわけではない。むしろ、極端な豪雪に見舞われることもある。雪が積もれば冬用タイヤの出番だが、今シーズンは顔ぶれが変わりそうだ。
米グッドイヤーが日本で販売するオールシーズンタイヤ
気象庁が発表した昨年12月の平均気温は各地域で例年より0.3〜1.8度高く、2016年の平均気温は統計記録が残る1898年以来、過去最高になった。一方、2016年11月には、この時期としては54年ぶりに都心で雪が降った。天候が予想しにくいことを背景に、これまで欧米向けの商品だったオールシーズンタイヤが日本でも売れる兆しを見せている。日本では冬用タイヤとして普及してきたスタッドレスタイヤと熾烈なシェア争いが始まろうとしている。仕掛けたのは米グッドイヤーだ。
天候不順に勝機あり
2016年11月23日、都心で晩秋の積雪という珍事が起こる前日。天気予報を受けて、関東各地の自動車用品店には冬用のスタッドレスタイヤへの交換を求める客が殺到し、数時間待ちの行列ができた。降って湧いたタイヤ特需は、メーカーにとって「恵みの雨だった」(ブリヂストンの西海和久COO=最高執行責任者)。
一方、全く違った思惑でこの現象を歓迎していたのが米グッドイヤーの日本法人、日本グッドイヤーだ。金原雄次郎社長は「先の読めない天候不順はオールシーズンタイヤの需要を拡大させる」と期待する。
オールシーズンタイヤは、熱い路面や降雨時に適した夏タイヤと、凍結路面に対応する冬タイヤの両方の特性を一定程度備えている。夏タイヤと冬タイヤの違いはゴムの剛性と、「サイプ」と呼ばれる細かな溝にある。硬い夏タイヤは熱に強く、水たまりの水をはじき飛ばす。一方、柔らかい冬タイヤは凍結路面に密着し、サイプで薄い水膜を吸い上げる。
オールシーズンタイヤは中央部分に冬タイヤのようにサイプを刻み、サイド部分は夏タイヤと同じく剛性を持たせてある。グッドイヤーは1977年、世界で初めてオールシーズンタイヤを発売した。
欧米市場ではオールシーズンタイヤが一般的だ。日本グッドイヤーによると、浅雪路や除雪路が多い米国ではオールシーズンタイヤのシェアは8割に達する。アウトバーンで高速走行するドライバーが多い欧州市場では、冬タイヤとしてより高い性能が求められるためシェアは落ちるが、5割程度のユーザーがオールシーズンタイヤを使う。
ところが、「日本の豪雪地帯の根雪が張る路面では、オールシーズンタイヤの性能は十分とは言えない。これまで日本市場でのシェアは、せいぜい1%程度だった」(金原社長)という。
日本グッドイヤーは2013年、海外で生産したセダン向けオールシーズンタイヤを日本でも販売し始めた。市場調査をした結果、積雪がまれな都心部では、夏タイヤとチェーンを併用するドライバーはオールシーズンタイヤの需要があると判断したからだ。「こうしたユーザーは市場の3分の2を占める。特にチェーンの取り付けなどが苦手な女性ドライバーには必要とされるはずだ」(金原社長)。
2016年度からは住友ゴム工業に委託して国内生産に切り替え、日本市場の主流となる小型車や軽自動車向けのオールシーズンタイヤを投入した。2017年にはSUV(スポーツ用多目的車)向けタイヤなど商品群の更なる拡大も検討しており、日本市場で攻勢をかける。
既に、2016年度のオールシーズンタイヤの販売は「昨年度の数倍」(金原社長)に伸びており、中長期的には「販売数をさらに1桁上に引き上げて主力商品に育てる」(同)と息巻く。昨年11月の降雪で、問い合わせも増えた。金原社長は「春先の降雪も増えており、夏タイヤに切り替えるタイミングも難しい。オールシーズンタイヤの需要は確実に伸びていく」と語る。
スタッドレスも海外で需要拡大
しかし、これまでオールシーズンタイヤに馴染みの薄い日本市場を開拓するのは容易ではない。
海外向けにオールシーズンタイヤを生産している日本メーカーの担当者は「都心部のユーザーの多くは夏タイヤで通年走り、たまの降雪時にはそもそも自動車を運転しない。スキー旅行でも、夏タイヤにチェーンを巻いて対応している」と話す。この会社は、日本市場でオールシーズンタイヤの本格展開は検討していないという。
むしろ日本の冬用タイヤであるスタッドレスタイヤは「このところ厳冬が続いた米国でも販売が伸びている」(同)と言う。欧米市場では主流のオールシーズンタイヤの需要を奪う格好だ。
欧米から日本に乗り込んでくるオールシーズンタイヤ、日本で育ち欧米に飛び出すスタッドレスタイヤ。冬用タイヤとして、それぞれ互いの牙城に攻め入る争いが熱を帯びている。
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