ユリ・ゲラー。イスラエル出身。日本をはじめ世界中に超能力ブームを巻き起こした男
40代以上の多くの人は、実際に曲げたことはなくても、曲げようと試みたことがあるはず。そう、スプーンの話だ。本来、料理を食べたりするための道具を日本全国で「曲がれ!」と念じる不思議な現象が起こったのは、ユリ・ゲラーの“超能力”によるものだ。
ユリ・ゲラーが日本で華々しく生放送デビューを飾ったのは1974年、昭和49年の3月7日。日本テレビの『木曜スペシャル』でのことだった。日本時間の20時35分、カナダからユリ・ゲラーが日本の茶の間に“念”を送り始める。すると、日本テレビ内に特別に設置された電話が、次々に鳴り始めた。
電話口で聞かれたのは、「曲がりました!」の声だった。
この番組を仕掛けたのは、当時日本テレビ社員だった矢追純一。特設電話の用意も彼のアイデアだ。視聴率は堂々の26.1%を記録した。
元日本テレビディレクター 矢追純一。UFOやネッシー、雪男などの企画で高視聴率を連発した。ユリ・ゲラーを日本に招き、超能力ブームを巻き起こした
ユリ・ゲラーが出演した「木曜スペシャル」の台本。矢追が保管していた40年前の貴重なもの
本当にユリ・ゲラーは超能力者なのか?
大人も巻き込んで大議論が始まり、「自分も曲げられる」と名乗り出る少年たちも現れた。
「超能力は、使えないの?」
そんな中、自分の将来に不安を覚える者もいた。松尾昭、手品商品の実演販売をしていた20代の男性だ。
昭和49年3月8日、つまり放送の翌日から松尾の前で足を止める人の数は激減した。昨日まで楽しげに手品を眺めていた客からかけられた一言は「超能力は、使えないの?」。“超能力”という“ホンモノ”を見てしまった人たちの目には、手品という、タネもシカケもある“インチキ”は色あせて見えたのだ。
マジック歴15年の松尾青年はうちひしがれ、仕事の予定をキャンセルして渡米する。目的は、ユリ・ゲラーに会い、その“超能力”を直接見ることだ。ユリ・ゲラーの講演が行われるホテルにたどり着いたが、講演は急遽中止に…。
しかしそこで、アメージング・ランディと運命的な出会いをする。
アメージング・ランディとは、ユリ・ゲラーの“超能力”こそ“インチキ”だと糾弾していた人物だ。職業はマジシャン。かなりの有名人である。ランディは松尾青年に、簡単にスプーンを曲げるトリックを教えてくれた。つまり、手品でもスプーンは曲げられるのだ。
謎はひとつ、解決した。しかし問題は、なぜ、テレビを見ているだけの人にまで、スプーンを曲げさせることができるのか。その後、松尾青年はまた別のマジシャンからヒントを得ることになる。
それから10年。“技”を習得した松尾青年は、Mr.マリックとして“超魔術”を披露し、一世を風靡することになる。
Mr.マリック。木曜スペシャル放送当時、デパートでマジック道具の実演販売をしていた
松尾青年をMr.マリックに変貌させたユリ・ゲラーとは何者なのか。
入口には巨大なスプーンを
1946年、ユリ・ゲラーはイスラエルで生まれた。両親はハンガリーからの移民。その両親はユリ・ゲラーが幼いころに離婚し、ウエイトレスやお針子として働く母に育てられる。そして彼によると、7歳の時に突然、スプーンを曲げられるようになった。それを学校で披露すると、一役人気者に。エンターテイナーとしての道を歩み出す。
そのユリ・ゲラーはイスラエルでは今もなお人気者だ。街を歩けば「ユリ・ゲラーでしょ?」「すげえ、ユリ・ゲラーだ!」と声がかかる。
いまだ衰えることのない人気を博すユリ・ゲラー。地元テルアビブにて、観光客の青年たちに声をかけられ写真を撮る
現在、ユリ・ゲラーはイスラエルのテルアビブに暮らしている。目下、自分自身に関する博物館を建設する計画を進めている。入口には巨大なスプーンを飾るという。
当時の番組制作側はそれを“超能力”と信じていたのか“インチキ”と思っていたのか、「超能力少年」のその後などについては、12月14日水曜21時からNHKBSプレミアムの『アナザーストーリーズ』で。
お手元には、曲がってもいいスプーンのご用意を。
(敬称略)
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