
「社員は悪くありませんから!」
100年の歴史を持つ企業の社長は記者会見で声を絞り出して大粒の涙を流し、巨大証券会社は、3兆5000億円という多額の負債を抱えて破綻した。グループ会社を含め“悪くない”社員1万人以上が職を失った。
「悪くないどころか、今、元・山一證券の人たちは様々な分野で活躍しています。それだけ実力のある人が集まった会社だったということでしょう。それが、『アナザーストーリーズ』でこのテーマを取り上げた理由の一つです」。NHKの番組プロデューサー、久保健一は言う。
1997年11月24日、山一證券はそれ以外になくなった最後の選択肢、自主廃業を選んだ。週刊東洋経済に不正疑惑を追及する記事の第一弾が掲載されたのが1997年4月、総会屋の利益供与の疑いで家宅捜索を受けたのが7月、前の社長が逮捕されたのが9月。そして迎えた11月のできごとだ。
自主廃業と82人の部下
永野修身は39歳だった。
バブル前夜の1982年に山一證券に入社し、全国トップのセールスを記録し、雑誌で記事にされたこともある。11月のその日、永野は自主廃業を上司からの電話で知った。
「自主廃業っていうのは、どういうことかな」
“廃業”はちょうど2年前、大相撲の大鳴門部屋が親方の廃業によって閉じられたときに盛んに使われた言葉だが、その言葉が自分の勤める会社に使われることの意味が飲み込めなかった。
ただ、もうこれまでの仕事が続けられないことはわかる。
小学校3年生の子どもを含めた家族のこと、残っている住宅ローン。これからのことを考えているうちに、バーボンのボトルが一本空いた。知らず知らずのうちに、頭の中は出社後のことで占められた。仲間をどうしたらいいのか。永野にはこのとき82人の部下がいた。

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