ナビゲーターに沢尻エリカを迎えた『アナザーストーリーズ』では、スミスの他にも、ジョブズの各時代に側にいた人たちへインタビューを行っている。そこからは、なぜジョブズがあのスピーチのテーマに「点と点をつなぐ」「愛と喪失」「死」を選んだかが見えてくる。

強烈に生き抜いたカリスマの実像

 『アナザーストーリーズ』プロデューサーの久保健一は番組を作りながら、ジョブズをどう見たのか。

 「強烈な野心と情熱を持って、一切の妥協なく事に当たる――。そう言葉にはできますが、実際にそれを貫くのは大変です。

 容赦なく人を切る。そこから生じる恨みつらみなど気にかけない。ある時は自分も切られる。自ら火だるまになることも辞さない。

 ジョブズを崇める人たちであっても、では実際に自分もジョブズのようにできるかといえば難しいでしょう。

 多くの人は『力を結集して事を成そう』という時、『今ここにいる人(点)をつないで最大限の力を発揮させよう』とします。それが間違っているわけではないし、現実的な方法でしょう。

 私たちは、掌中にあるものを手放したり、つながっているものを切り離したりすることを躊躇します。今の状態であり続けることに安住しようとしがちです。

 せっかくそれらしい形になっている点のつながりをバラバラにして一から作るのは大変だから、という怠け心が頭をもたげたり。もしかしたら、それらしい形の点のつながりをもう作れないかもしれない、という不安を感じたり。

 見方を変えればそれは、自らの『点をつなぐ力』を絶対的には信じていないということかもしれません。

 他方、ジョブズの中には『点は必ずつながる』という確信があるように感じました。ジョブズのやり方は、容赦なく点を潰してしまう乱暴さが目を引くわけですが、残った点をつないだ先に、抜きん出たものを生み出してきた実績は揺るぎのないものです。自らの才を頼みに容赦なく人を切り、返り血を浴び、自らも血を流しながらも、実は、人が持つ『つなげる力』を心底信じていたのは、ジョブズその人だったのかもしれない…。

 『神』と崇められるばかりのジョブズではなく、容赦なく人を罵倒するばかりのジョブズでもなく、マルチアングルで迫ったその姿から改めて、強烈に生き抜いたカリスマの実像を感じていただければと思います」

アップルでiphoneをプレゼンするスティーブ・ジョブズ

 放送はNHK BSプレミアムで10月12日水曜21時から。
(敬称略)

新刊『今だから、話す 6つの事件、その真相
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当連載『時効スクープ~今だから、聞けた』でご紹介してきたNHK-BSプレミアム「アナザーストーリーズ 運命の分岐点」の数々のストーリー。そこから選りすぐりの6つの事件を収録した書籍ができました。番組ディレクターたちの「現場の声」とともに、事件の新たな一面に光を当てます。
当時は話せなかったが、今なら話せる。いや、「真実」を話しておくべきだ――。過去に埋もれた「思い」を掘り起こすと、「知られざるストーリー」が浮かび上がってきました。

<改めて知る、6つの事件>

●日航機墜落事故 1985  レンズの先、手の温もり、「命の重さ」と向き合った人々
●チャレンジャー号爆発事故 1986  悲しみを越えて、「夢」を継ぐ者たちがいる
●チェルノブイリ原発事故 1986  隠されたはずの「真実」は、そこに飾られていた
●ベルリンの壁、崩壊 1989  「歴史の闇」を知る者が静かに、重い口を開いた
●ダイアナ妃、事故死 1997  作られたスクープ、彼女の「最後の恋の駆け引き」
●大統領のスキャンダル 1998  翻弄し、翻弄された3人の女と、2人のクリントン