スティーブ・ジョブズ、スタンフォード大学卒業式でのスピーチ

 スティーブ・ジョブズ。iMac、iPod、iPhoneなどを世に送り出し、人々を魅了し続けた男が逝って5年。カリスマを失ったアップルは業績の如何にかかわらず、「ジョブズのいないアップル」として不安の目を向け続けられることになった。亡き後もなお、その存在感は衰えることを知らない。

 生前のジョブズは新製品を発表するたび、聴衆を前に自信たっぷりに語った。彼がつくった製品がいかに革新的か、いかにその後の世界を変えるのか。

 人々は彼の言葉に頷き、発売日には一刻も早く手にしたいと長蛇の列を作った。その言葉は、聴く者たちの心を揺さぶり、行動を起こさせる力を持っていた。

“Stay hungry, Stay foolish”

 そのジョブズの最も有名な演説は、2005年6月12日のものだろう。

 “Stay hungry, Stay foolish”

 若き日のジョブズの心を捉えたその言葉で締めくくられたスタンフォード大学卒業式でのスピーチには、3つのテーマ「点と点をつなぐ」「愛と喪失」「死」があった。

 成功者のスピーチに耳を傾けていた人々の多くは、その輝かしい成功譚が語られることを予想し、裏切られた。しかし、それは落胆とはならなかった。

 式に出席していた卒業生のひとりは言う。

 「本当に感動したよ。成功者の彼だって、僕らと同じ人間なんだと感じたんだ」

 当時50歳のジョブズが2万人の聴衆を前に行ったスピーチは、10年後の今も人々の心を放さず、スタンフォード大学の公式映像の再生回数は2500万回を超え、ユーチューブなどにアップされた動画を合わせれば1億回を超える。人々はいまなお繰り返し耳を傾け、そこから何かを感じ取ろうとしている。

 さて、かつてジョブズと一緒に仕事をしていた人たちは、どう聞いたのか。

 ある男は、こう答えた。

 「あれは最高のスピーチだよ。あれ以上のものはないね」

 ある男は、こう答えた。

 「あいつはペテン師だ。みんな騙されているんだよ」