1972年11月5日、日本で初めて上野動物園で一般公開されたカンカンとランラン
「立ち止まらないで下さい!」。2時間並んで30秒、2kmの行列の先にいるパンダを見るために人々が押し掛けた

 1972年9月、日本と中国の間の国交が結ばれた。そのシンボルとして、中国から日本に贈られたのが、2頭のジャイアントパンダ、カンカンとランラン。上野動物園とその周辺には、愛らしい姿を一目見ようという人で長い行列ができた。2時間待って30秒しか見られなくても、辛抱強く待っていた。

 希少動物であるパンダ。それを中国からプレゼントされたのは日本が初めてではない。

 1971年2月、アメリカのニクソン大統領が中国を訪れ、毛沢東主席や周恩来首相と歴史的な会談を行い、国交樹立へ向けて動き始めていた。しかし、アメリカ国内に長い間、蔓延していた「中国憎し」の感情は、簡単には消えない。そのときに中国がアメリカへ贈ったのが、大熊猫ことパンダだった。

 1972年4月にアメリカ・ワシントンで公開されたパンダは一躍人気者となり、アメリカと中国の敵対していた関係は、急速に過去のものと化していった。パンダが、東西冷戦の雪解けムードを盛り上げたと言ってもいいだろう。もしもパンダが可愛すぎる哺乳類でなければ、今の米中関係は少し違ったものになっていたかもしれない。

アメリカを攻略、次は日本だ

 パンダの威力を目の当たりにした周恩来は、次のターゲットを日本に絞った。

 1972年9月25日、当時の田中角栄首相が5日間の予定で中国を訪れた。目的は日中国交正常化だ。

 田中角栄と周恩来はすぐに打ち解けて、両国の間には、国交正常化は間違いがないという空気が流れた。

 その空気が一変したのは、歓迎晩餐会の席でのこと。田中がスピーチをしたときだ。