深作の言う“微妙に動いた方がいい”は“少し動いた方がいい”ではなく、“動いて”の意味だ。

 では、どう動くのか?
 深作がそれを具体的に口にすることはない。

 「今のはどこが悪かった、どこがどうやったとかじゃなくて“微妙に違う”。耳にこびりついてます」(制作進行の宇治本進)

“微妙に”ですべてを引き出せ

 “微妙に”は、深作の口癖だった。

 「“いいんだけど、微妙に違うんだよなぁ。もう一回やろう”と」

 そうよく言われたと、主演・菅原文太が演じる広能昌三の子分、岩見益夫を演じた俳優の野口貴史は振り返る。「(役者のいいところを)引っ張ろうとしているんですよ。そうするとね『面白い』っていうのが出てくるんですよ」

 こうも言っている。
 「一応、『仁義』って菅原文太さんが主演なんだけど。現場でも菅原文太さんが主演って雰囲気じゃないんですよ。皆が主演みたいな感じですよ。ちょっとしか出てなくても」

 ちょっとしか出ていない役者も、ちょっとも出ていない裏方も同じこと。深作は映画に関わる全員をプロと見なし、そのプロから、深作の中にあるものを超えた工夫やアイデアを引き出す。“微妙に”は深作の中にない正解を引きずり出すためのマジックワードだった。

 衣装担当の山崎武もそれに乗せられたうちの一人だ。
 「“微妙に違うんだな”。微妙、どれやねん!みたいなね」

 指摘されたのは、役者の着るオープンシャツ、いわゆる開襟シャツである。シャツの生地はたいてい、薄い。当たり前のことにすら深作はイメージと違うとダメ出しをした。そう言われて、シャツの生地は薄いと相場が決まっているものですと開き直ることを、当時25歳の山崎はしなかった。