疑惑を後から検証ができるのは、映像が残されているからでもある。その瞬間を捉えた映像のうち、最も有名なのは「ザプルーダー・フィルム」と呼ばれる映像だろう。当日、ロシアからの移民である、エイブラハム・ザプルーダーが撮影していたものだ。彼にとって、自由を唱える大統領は憧れの存在だった。

 事件発生直後、エイブラハムはシークレットサービスから、フィルムを現像させてくれと依頼される。連れて行かれたのは地元のテレビ局。現像を待つ間、彼は目撃者として生放送にかり出された。

 エイブラハムのカメラは最新式だったためテレビ局では現像できず、専門店へ。事件から3時間半後、エイブラハムはようやく、自分が何を撮影したのかを見た。映像を求めて記者が殺到したのは、その翌日のことだった。

「事件」か「人」か

 エイブラハムは、その映像がセンセーショナルに使われることを恐れた。大統領の遺族がそれを見て、より悲しむことは避けたかった。

 悩んだ末に愛読していた写真誌『ライフ』に譲渡することにしたが、悲劇をもてあそぶような使い方はしないでほしいと念を押した。

 ライフの編集部はそれを守り、カラー映像ではなく、連続するモノクロの静止画で公開した。3発目が命中した瞬間は使わなかった。

 今、動画サイトで簡単に探し、見ることができるザプルーダー・フィルム、そこには3発目の弾丸がケネディ大統領の頭部をつきぬける瞬間が映っている。『アナザーストーリーズ』では「決定的瞬間」を使わない。使うことも考えたが、止めた。その理由を河瀬はこう話す。

 「最初は使うつもりでした。でも違和感があるんです。大統領暗殺という『事件』を伝えるならば、あの事件の残虐さを伝えるならば、あの『決定的瞬間』の映像は欠かせない要素かもしれません。しかし今回は、その『決定的瞬間』を偶然撮ってしまい、その重さに苦しみ続けた『人』に寄り添って、彼のストーリーを伝えるものです。その違いが、違和感の根源でした。エイブラハムの、そして彼の家族のストーリーを描くのであれば、その『決定的瞬間』を使うことは、何か大きな矛盾をはらんでしまうのではないか。そう思い至りました」

 放送は5月11日水曜日午後9時から。エイブラハムの孫・アレクサンドラは取材に答えてこう言っている。

 「(ザプルーダー・フィルムは)道徳観の境界線をぶち壊してしまいました。でも私たちは、フィルムなしに自分たちを語れないし、家族はそれを背負っていくつもりです」

暗殺の瞬間を捉えた「ザプルーダー・フィルム」。期せずして、その映像を撮影した男の孫娘、アレクサンドラ・ザプルーダーが祖父の苦悩と数奇な物語を語る

 この番組が「答え」を示しても、暗殺をめぐる様々な“説”が消えることはないだろう。それぞれの説は、それぞれ多くの人々の人生につながり、それぞれのアナザーストーリーが紡がれ続けているのだから。(文中敬称略)