「誰も文句言わなかったね。あれは偉かったね。牛山さんも偉いと思うけど、中継班、それから我々も偉いね。一人も文句言わなかった」

 池松はその理由をこう語る。

「牛さんが言っていること間違ってない。やっぱりそっちに賭けたんだね」

奇策ハレルヤ、45秒間の笑顔

 では、前日の雨が上がり、晴れたパレード当日、各社はどんな映像を撮ったのか。

 特注したレールを駆使してNHKの設楽が撮ったブレのないロングカットは93秒間にも及んでいる。「レールもすごいが、設楽もすごい」と他局のカメラマンに言わせたその映像には、馬車から手を振る二人の姿はもちろん、手前の木々、押し寄せた人々、神宮外苑の銀杏並木も収まっている。二人をアップにはしていない。理由はシンプルだ。

「記録で残したいから」

 どこを走っているのか、どれだけの数の人が祝福のために足を運んだのか、それも含めて後世に残したいと思った。

 TBSは、設楽が脇から撮っていた映像を、ビルから撮っていた。二人が乗った馬車だけでなく、前後に長く連なる行列を正面から捉え続けられるのはここだけ。約2分間に渡る有名なカットが撮影された。

 NHKとTBSが最大の見せ場を撮り終えた後も、日本テレビの奮闘は続いていた。細い道に入ると、馬車とカメラの距離が近くなる。アップ撮影のチャンスだ。そこにとっておきの用意をしていた。

 同社は美智子さまにカメラの方を向いてもらうため、沿道に青山学院大学の学生30人からなるコーラス隊を配備。そして馬車が近づくとハレルヤを歌わせるという奇策をとり、美智子さまの笑顔を約45秒間、独占した。

 生中継をした各社がどれだけアップのショットを撮ったのかは記録が残っている。NHKが306秒、TBSが355秒、そして、日本テレビが368秒。

 テレビがスタートアップであった時代の、若いテレビマンの勝負の結果でもある映像も織り込んだアナザーストーリーズ『華麗なるご成婚パレード 世紀の生中継・舞台裏の熱戦』の放送は、4月13日(水)21時からBSプレミアムで。

(文中敬称略)

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