ご成婚パレードの生中継はテレビマンたちの勝負の場だった
ご成婚パレードの生中継はテレビマンたちの勝負の場だった

 皇居をスタートし、麹町、四谷を通って神宮外苑を抜け、渋谷区にあった東宮仮御所へ向かう――1959年4月10日午後2時半、50分間かけて8.8kmを往く小さな、しかし日本中の注目を浴びる旅が始まった。皇太子殿下(現在の天皇陛下)と美智子さまのご成婚パレードだ。

新参者のテレビが1500万人の目を釘付けに

 二人の門出を一目見ようと沿道には53万人が詰めかけ、街頭テレビの前には1500万人もが集まった。

1500万人もの人が街頭テレビでパレードを見守った
1500万人もの人が街頭テレビでパレードを見守った

 一部始終はテレビで生中継されていた。試みたのはNHK、日本テレビ、そしてTBS(当時のラジオ東京テレビ)。テレビ放送は1953年、つまりご成婚パレードのたった6年前に誕生したばかり。テレビはスタートアップ的存在だった。

 当時、テレビとはどんな存在だったのかを85歳の男性に振り返ってもらう。

「新聞があってラジオがあって、ニュース映画があってその下にテレビがっていう、メディアの世界で、位置がありましたでしょ? なんとなく下目に見られていて、今に見ていろと思って」

 そう語るのは鈴木茂夫。当時は28歳で、TBSのニュース記者だった。「俺たちの立っている、立ち位置が上がる」。下にいるテレビがメディアでの下克上を果たすには、このご成婚パレードの生中継だと勝負に出た。

TBSのニュース記者だった鈴木茂夫。当時は28歳
TBSのニュース記者だった鈴木茂夫。当時は28歳

 生中継の準備段階で一歩リードしていたのは、1955年にテレビ放送を開始したTBSだった。記者としての人脈を駆使し、正式発表の1カ月近く前に早くパレードのルートを突き止め、ここぞという撮影ポイントの使用許可を取り付ける。神宮外苑の事務所とまで契約をする念の入れようだった。

 TBSが万全の体制を敷いたと知って焦ったのは他局、とりわけ公共放送のNHKだ。

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