北朝鮮の人物が日本人になりすまし、「朝鮮半島統一のため」、韓国で開かれる五輪を妨害しようと、韓国の飛行中の航空機を爆破した。韓国の捜査機関に逮捕された北朝鮮の人物――訓練を受けた女性工作員――は、自分は実は日本在住の中国人だと言い張って、罰を免れようとする。しかし、偽証言中、ディテールでミスをしたことをきっかけに、真実の告白を始める。彼女の名前は、キム・ヒョンヒ。

キム・ヒョンヒはいかに工作員となり、どのように犯行に及んだのか

 1987年11月29日、バグダッドを出て、アブダビとバンコクを経由しソウルを目指す大韓航空858便が、第一寄港地のアブダビを発った後にインド洋上で爆発し、115名が死亡した。爆発の原因は、機内に持ち込まれた時限発火装置付きのプラスティック爆弾と、液体爆弾。犯行に及んだのは、アブダビで身柄を確保された際に自殺した男性と、当時26歳だったキム・ヒョンヒだった。

 キム・ヒョンヒは韓国で死刑判決、そして特赦を受け、韓国の住民となった。その後、日本のテレビ番組にも出演している。アナザーストーリーズでも今回、彼女への取材を試みたが「結果として、彼女に取材できませんでした。しかし別のアプローチをせざるをえなかったことで、事件の詳細なディテールを掘り下げることができました」とプロデューサーの河瀬大作は話す。張本人の話を聞かなかった分、周辺取材を精力的に強め、それが、事故の直前直後にキム・ヒョンヒのすぐ近くにいた人たちの証言と、5000ページにも及ぶ捜査資料の発見につながったからだ。

5000ページに及ぶ資料が、事件に新たな光を当てた

韓国語、英語、そして

 この事故では、乗客乗員全員が死亡している。だから爆発直前の機内の様子を証言できる人はいない。しかし、キム・ヒョンヒと同様に、バグダッドで乗り、アブダビで下りた人はいる。そのうちの一人が大韓航空の客室乗務員、パク・ウンミだ。彼女は、搭乗してきたキム・ヒョンヒと会話をしていた。

「座席は何番ですか?」

 彼女は“韓国語で”話しかける。キム・ヒョンヒは答えない。日本人を装っているからだ。韓国語は理解できない振りをしなくてはならない。

「座席は何番ですか?」

 今度は“英語で”話しかける。キム・ヒョンヒは答えない。