Dumb blonde(ダム・ブロンド)とは、見た目は良くても中身は空っぽな金髪女性を揶揄する言葉だ。生前のマリリン・モンローは、そのダム・ブロンドの代名詞だった。「シャネルの5番」発言や、36歳という若さでの謎めいた死は、そこにミステリアスな雰囲気をまとわせる。
誰もが名前と顔を知るマリリン・モンローとは、どんな女優だったのか。
「キスは3秒まで」見せかけの規制に反旗
今回、『アナザーストーリーズ』取材班が、普段はスタジオにいる真木よう子と共に再発見した彼女は、「禁欲的な社会」「ハリウッド」「愛」の常識に反逆することをためらわない強さを持つ女性だった。
ハリウッド・チャイニーズシアターにほど近いハリウッドスターの壁の前で
『ナイアガラ』で準主役、『紳士は金髪がお好き』でヒロインを演じた1953年、彼女のヌード写真の存在が明らかになった。子供の頃から憧れていた映画女優になれたはものの、巡ってくるのは端役ばかりだったころ、生活のため、わずか50ドルのギャラで撮らせたものだった。
当時、1950年代のハリウッドは今とは比べようもないくらいに保守的だった。政府や宗教団体から咎められることのないよう「キスは3秒まで」「セリフに“バージン”という言葉はNG」など、いくつもの自主規制を設けていたのだ。
そのご時世に、ヌードになったことのある女優を登用するなどもってのほか。マリリンと契約していた映画会社は彼女に対し、ヌードは赤の他人であると言い張るようにと求めた。
ところがそれにマリリンは反旗を翻す。取材であの写真が自分自身であるかを尋ねられ、あっさりとそれを認めた。
その瞬間、映画会社は世間からの反発と彼女の女優生命の終わりを予感したが、現実はそうはならなかった。マリリンの素直なカミングアウトは多くの人の共感を呼んだのだ。
1953年は、オードリー・ヘップバーンが『ローマの休日』でアカデミー主演女優賞を獲得した年でもある。清楚で品のあるイメージのオードリーが人気を集める一方で、マリリンにあてがわれるのはダム・ブロンドの役ばかり。
マリリンはストリッパー役で出演することが決まっていた次の映画の撮影現場に姿を見せなくなった。
「前代未聞」をかがり火に進め
映画会社は彼女を停職処分とした。そのうち、泣きついてくるに違いない、さもなければ、世間は彼女を忘れるだけだ――と。
仕事を干されたマリリンは、プライベートで世間の耳目を集めた。交際していたメジャーリーグの元スーパースター、ジョー・ディマジオとの結婚を正式に発表。新婚旅行で日本を訪れたマリリンは、その足で韓国へも飛んだ。朝鮮戦争停戦直後の韓国には、多くのアメリカ兵がいた。彼女は厳しい気候の中、精力的に慰問をこなし、スターとしての自信を深めていく。
アメリカに戻ったマリリンは地下鉄の通気口から吹き出した風でスカートがふわりとまくれるあのシーンで有名な、『七年目の浮気』の撮影に臨む。そしてその公開直前に、映画会社に戦いを挑んだ。
契約を破棄し、今後は、出演作品やギャラを自分で交渉して決めると宣言したのだ。
前代未聞の行動を取ったマリリンは約1年間、新たな仕事を得られなくなる。しかし世間は彼女に味方した。『七年目の浮気』が大ヒット。仕事がストップした時期にアクターズスタジオで演技を学んだ彼女はその追い風を受けて『バスストップ』への出演を決める。このとき、彼女が相手役に指名したのは、新人のドン・マレー。
「彼女はよくセリフを忘れて、撮影が中断しました。私は舞台出身の俳優なので、途中で演技を止めてまた再開するということには不慣れで、大変困りました」
「役者もスタッフも、多くの人が、この映画は失敗に終わる、マリリンのせいでダメだと思いました」
マレーは当時をそう振り返る。しかし、完成後の映像を見て、細切れの演技には何の問題もなかったと気付いた。
映画『バスストップ』でマリリン・モンローと競演した俳優ドン・マレーのロサンゼルスの自宅を訪ねる
「映画を見て、マリリンの素晴らしさに驚きました」
「感情の流れがしっかり繋がっているマリリンの演技を監督も分かっていて、そのコラボで素晴らしい作品となったのです。それが映画の不思議な魅力だと分かりました」
女優・真木よう子のアングル
では、三度目の反乱は。
それは放送でご覧いただくとして、担当プロデューサーの河瀬大作は今回の取材でマリリンの人気に改めて圧倒されたという。
「今もハリウッドのお土産屋さんには、マリリンのコーナーがしっかり用意されています。過去の俳優のグッズはほかにも並んでいるのですが、彼女のものだけ品揃えが違います。いかに今も愛されている存在なのかが、よく分かります」
そして、なにより、女優・真木よう子の“鋭い感性に”目を開かされた。
「最も好きな女優の一人なので、思い入れもひとしおでした。ロケの最中、は~、これをこう捉えるんだ、受け止めるんだと、真木さんだから“発見できた”ことがたくさんあります。現地を訪れ、当事者たちの話を聞く中で、その時々のマリリンが何を感じていたのか、同じ女優である真木さんならではの感性がシンクロする形で浮かび上がってくる。真木さんには感じたことはすべて話してもらい、文章としても書き留めてももらいました。そのなかでは真木さん自身の『女優としての葛藤』も赤裸々に語っていて、そこも番組の大きな見所です。『アナザーストーリーズ』は、一つの物事、一人の人にいくつものアングルから迫る番組ですが、今回のマリリン編では、“女優・真木よう子”の視点からも、マリリンを見ることができます」
放送は、3月26日(土)21時30分からBSプレミアムで。なお、翌27日(日)8時からはNHK総合で、大好評だった『あさが来たスペシャル』も再放送される(関連記事「『あさが来た』のモデル広岡浅子の素顔を追え)。
マリリン・モンローが亡くなる直前まで写真を撮影していた写真家 ジョージ・バリス氏
ジョージ・バリス氏が撮影したマリリン・モンロー最期の写真
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