しかし、1番人気で臨んだ1989年の有馬記念では5位に終わり、翌1990年5月の安田記念では1番人気で1着になって期待に応えるも、6月の宝塚記念では1番人気で2着、10月の秋の天皇賞ではやはり1番人気ながら、過去最悪の6着。瞬間的に強く輝く光のような夢を見せてくれたけど、もう、オグリキャップは終わりだろうとささやかれるようになった。11月のジャパンカップでは4番人気で、結果は11着。終焉は確定し、有馬記念での引退が決まった。

ラストラン、18万人の大歓声

 1990年12月23日、オグリキャップのラストランを見届けるため、JR船橋法典駅から徒歩10分ほどの距離にある中山競馬場には18万人もの人がつめかけていた。天気晴朗、良馬場。注目は、どの馬が勝つのか、そして、オグリキャップが最後にどんな走りをするか。

 ファン投票では1位だが、オッズはというとホワイトストーン、メジロアルダン、メジロライアンの後塵を拝しての4番手。勝ってほしいけれど、勝てないだろう。それが世間の評価だった。騎乗した武豊も、たとえゴールまで続かなくても、残り600メートルのところで、見ている人が「来た来た来た!」となる、オグリキャップらしい見せ場を作りたいと考えていた。そして、オグリキャップをその誕生前から育てた調教師・鷲見昌勇は、中山競馬場から遠く離れたテレビの前でこう思っていた。「勝つなんてことはわかっとるで。最後の華は飾るってことは」

ライバルとしてオグリキャップと名勝負を繰り広げ、その強さを知る武豊が、ラストランの騎手を務めた
オグリキャップの育ての親、鷲見昌勇元調教師

 こういったドラマを持つ馬が、最後のレースで、らしい勝ち方で勝ったのだから、それは大事件だ。

引退レースでのウィニングラン。約18万人の「オグリコール」が鳴り響いた(©︎JRA)

 ただ、ドラマは探せばどこにでもあるものだし、強い存在の記憶も時間と共に忘却の彼方に追いやられるものだ。そもそも、強さを持ちながら人を熱狂させることなく表舞台から去る存在もある。なぜ、オグリキャップは特別だったのか。今もなお、多くの人の心に残像として生きるのか。ページを増やしてもらった卒業アルバム委員・久保健一は、NHK-BS「アナザーストーリーズ」プロデューサーとしてその長年の疑問を、3月22日放送の「怪物 オグリキャップ ~涙のラストラン~」で読み解いていく。

久保の卒業アルバムには、オグリキャップの雄姿が

新刊『今だから、話す 6つの事件、その真相
好評発売中

当連載『時効スクープ~今だから、聞けた』でご紹介してきたNHK-BSプレミアム「アナザーストーリーズ 運命の分岐点」の数々のストーリー。そこから選りすぐりの6つの事件を収録した書籍ができました。番組ディレクターたちの「現場の声」とともに、事件の新たな一面に光を当てます。
当時は話せなかったが、今なら話せる。いや、「真実」を話しておくべきだ――。過去に埋もれた「思い」を掘り起こすと、「知られざるストーリー」が浮かび上がってきました。

<改めて知る、6つの事件>

●日航機墜落事故 1985  レンズの先、手の温もり、「命の重さ」と向き合った人々
●チャレンジャー号爆発事故 1986  悲しみを越えて、「夢」を継ぐ者たちがいる
●チェルノブイリ原発事故 1986  隠されたはずの「真実」は、そこに飾られていた
●ベルリンの壁、崩壊 1989  「歴史の闇」を知る者が静かに、重い口を開いた
●ダイアナ妃、事故死 1997  作られたスクープ、彼女の「最後の恋の駆け引き」
●大統領のスキャンダル 1998  翻弄し、翻弄された3人の女と、2人のクリントン