NHK-BS「アナザーストーリーズ」のプロデューサー、久保健一は1997年にNHKに入局、初任地は鹿児島だった。希望通りの配属だ。できるだけ遠くに行きたいと思い、鹿児島、釧路、高知の順に希望を出していた。沖縄を避けたのは人気が殺到するだろうから、札幌を避けたのは大都市だからだ。

地元紙の小さな記事

 その鹿児島で、地元紙にときおり載る小さな記事が気になった。行方不明になった息子を探す家族のニュースだ。周囲に聞くと、どうやらその男性は、北朝鮮に拉致された“らしい”。

 拉致現場とされる吹上浜にも行ってみたが、ここから他国へというイメージが湧かない。そもそもなぜ、日本人を力尽くで連れ去るのか。身代金を要求するわけでもなく、犯行声明を出すわけでもない拉致の目的は何なのか。

 取材してみたい。そう考えたが、「お前の手には負えないよ」と言われた。

 なぜ証拠がないのに“らしい”と言えるのか。何も分からないのに“手に負えない”と言えるのか。

 結局、久保は取材をしなかった。

 一歩先が闇だと直感していたからだ。まずはこういったことを調べ、この人たちに話を聞いて、それからほかの取材対象を探して、という先の見通しが、全く立たない。一歩歩き出すと、そこは真っ暗で、どの方向にどれだけ長い道があるのか分からない。それ以前に、道があるかどうかも分からない。“手に負えない”とはそういうことなのだろうと思った。

 だからこそ、2002年に、5人の拉致被害者が帰国したときには衝撃を受けた。「なぜあのとき、自分は取材しなかったのか」という思いは今も心にくすぶっている。そして、これを最初に公のニュースにできた人は、どうやってそこに至ったのかを知りたいと思った。

 3月1日(水)21時~の「アナザーストーリーズ」では北朝鮮による日本人の拉致を取り上げる。