米国にはIonQ以外にも、大学からスピンアウトした量子コンピュータのスタートアップがある。米国の有力大学であるイェール大学の量子コンピュータ研究者、Michel Devoret氏、 Luigi Frunzio氏、Robert Schoelkopf氏が共同で起業した米Quantum Circuits Inc(QCI)で、2017年11月にはシリコンバレーの有力VCである米Canaan Partnersと米Sequoia Capitalから1800万ドルを調達している。QCIも超伝導型の量子コンピュータを開発中だ。

 大学からスピンアウトしたテクノロジースタートアップに有力VCが巨額の資金を投じるというシリコンバレーではおなじみの構図が、既に量子コンピュータの領域でも実現している。

Rigetti Computingが変えた「風向き」

 資金調達という点ではIBMの量子コンピュータ研究者だったChad Rigetti氏が起業した米Rigetti Computingも負けてはいない。超伝導型量子コンピュータを開発する同社は2017年3月までに6920万ドルもの資金を調達済みだ。同社の出資者には、シリコンバレーのVCである米Andreessen Horowitzやスタートアップアクセラレーターの米Y Combinator、アラブ首長国連邦(UAE)のVCであるVy Capitalなどが名を連ねる。

 あるベンチャーキャピタリストは「Rigetti Computingの大規模資金調達によって、業界の雰囲気が大きく変わった。量子コンピュータ関連スタートアップへの投資が、これ以降は一気に加速した」と語る。2017年11月にはカナダに拠点を置く量子コンピュータ関連ソフトウエアのスタートアップである1QB Information Technologies Inc(1QBit)が、富士通や米Accentureなどから4500万ドルの資金を調達している。

 こうした量子コンピュータスタートアップの先輩格に当たるのが、カナダのD-Wave Systemsだ。「量子アニーリング方式」の量子コンピュータを開発するD-Waveは2017年5月までに、2億ドルを超える資金を調達済みだ。同社に出資するのは、金融大手のGoldman Sachsや、Amazon.comの創業者であるJeff Bezos氏の投資会社であるBezos Expeditions、米中央情報局(CIA)のVC部門である米In-Q-Tel、シリコンバレーの有力VCであるDFJなど大物揃いだ。日本円にして数十億~数百億円もの資金を集めるスタートアップが存在するのが、今の量子コンピュータを取り巻く状況なのだ。

「常温核融合」とは違う、とVCは主張

 有力VCが量子コンピュータ関連スタートアップに多額の資金を投じ始めているのは、実用性のある量子コンピュータが間もなく実現するという期待が高まっているためだ。Q2B Conferenceに登壇したGVのパートナーであるShaun Maguire氏は、「我々は『常温核融合』に投資しているわけではない」と主張する。常温核融合が本当に可能かまだ分かっていないのに対して、量子コンピュータは少なくともその存在が「確認済み」であり、GoogleやIBMは近年、量子ビットの数を急速に増やし続けている。実用性のある量子コンピュータが本当に間もなく実現するかどうかは定かではないが、VCとして許容できるリスクの範囲内だという判断だ。

 もちろん、シリコンバレーの有力VCが出資したものの最終的に失敗したというスタートアップの事例は枚挙に暇が無い。果たして量子コンピュータは本当に産業として羽ばたくことができるのか。量子コンピュータ関連スタートアップの動向からは、当面目が離せなくなりそうだ。

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