今はテクノロジーメディアが無数にありますが、New York Timesに加わった1988年当時は、テクノロジー記者は何人だったのでしょうか。そして、今は?

 New York Timesに入社した当時、いたのは「全米コンピュータ担当記者」が1人(これが私でした)、通信担当記者が1人、シリコンバレー担当記者がパートタイムで1人だけでした。テクノロジーという観点で言うと、エネルギーや科学といったほかの分野を取材する記者もいて、彼らを合わせると6~7人がいました。コンピュータ関連では前述の通り2~3人だけです。今は、記者が15人、編集者が2人という編成です。

テクノロジーに関わっていてうれしくなることと、反対に懸念を抱くことは何ですか?

 最も楽観的にさせてくれるのは、人間を「オーグメント(補完)」するテクノロジーです。パーソナルコンピュータがまさにそうしたテクノロジーで、スティーブ・ジョブズ氏も「知の自転車」と呼びました。ここ数年は、テクノロジーを離れて素材科学を取材していたのですが、この分野での研究は社会に劇的なインパクトを与える可能性があると、非常に驚きました。

 心配しているのは、サーベイランス(監視)テクノロジーや人間の個人性を剥奪するようなテクノロジーです。また、バイオテックの発展によって悪い結果が生まれることにも懸念を抱いています。「Crispr CAS9(著者注:ゲノム編集技術の一種)」は、予測不能で、インターネット、コンピュータ、AI(人工知能)テクノロジーなどをはるかに上回る脅威を与える可能性もあります。

将来、出現を楽しみにしているテクノロジーは何ですか?

 基本的には、ダグ・エンゲルバート(Doug Engelbart)氏が最初に始めたIA(Intelligence Augmentation=知能の補完)テクノロジーに希望を持っています。エンゲルバート氏は、マウスやハイパーテキストの発明者です。ただ、現時点では、AIに大きな関心が寄せられてはいるものの、コンピュータ自体は中休み状態にあるように感じられます。一方で、素材科学にかなり興味深い発展が見られます。メタ素材、核融合炉技術、エネルギー蓄蔵源としてのグラフェン利用などが例でしょう。

なぜ今、スチュアート・ブランド氏に関する本を書いているのですか?

 彼の人生は、ここ50年間に起こったことの骨子になっていると感じられるからです。彼は「カリフォルニア的感性」とでも呼ぶべきものを生みました。そしてこれは、アメリカを超えて世界に影響力を及ぼしています。ですから、この本はスチュアート・ブランド氏の伝記でありながら、現代カリフォルニアの社会史でもあるのです。

テクノロジーの記事を書く際に、意図したことは何ですか?

 私はもともと、社会学を学びました。ですから、テクノロジーが社会にどんな影響を与えるかに深い関心を持っていました。大学を卒業してシリコンバレーに戻って来た1977年当時(ちょうど、その「シリコンバレー」という名前が生まれた数年後のことです)、私が書こうと思っていたのは、軍事とマイクロエレクトロニクスでした。というのも、私は反戦活動家でしたから。