高度なAIを実現するため、June Intelligent OvenにはNVIDIAのSoC(System on a Chip)「Tegra K1」を搭載した。自動運転車などにも採用されている強力なGPUを搭載するSoCだ。「NVIDIAのGPUを搭載した調理家電は、June Intelligent Ovenが世界初だ」。Van Horn CEOは胸を張る。
ディープラーニングの処理は非常に重いため、スマートフォンやタブレットの場合はクラウドで処理を実行する。しかしJune Intelligent Ovenは強力なGPUに加えて、2ギガバイト(GB)ものメモリーを搭載する。そのため、ディープラーニングの処理をローカル(オーブン内)で完結させられる。通常のスマホやタブレットを上回る処理性能を有するのだ。
ネット経由でソフトを更新し、オーブンが進化
June Intelligent OvenはWi-Fi経由でインターネットに接続し、OTA(オーバー・ザ・エアー)で本体のソフトウエアをアップデートしたり、レシピの種類を増やしたりできる。2017年8月にはソフトウエアアップデートで、低温でじっくりと食材を調理する「スロークック」モードを追加した。OTAでソフトを進化させるという発想は、スマホやタブレット、そして米Teslaの電気自動車を彷彿とさせる。June Intelligent Ovenは「進化する調理家電」でもあるのだ。
Juneの創業は2014年11月。Pathの同僚だったVan Horn氏とBhogal氏が「画像認識AIを備えたオーブンを作ろう」と思いつき、iPhoneと手作りオーブンを組み合わせて、すぐにプロトタイプを作った(写真6)。何度かのプロトタイプ作成を経て、2016年12月に製品化した。スタートアップ企業がプロトタイプを作り、中国のODM(相手先ブランドによる設計・生産)事業者が量産する。製品は調理家電だが、開発工程は「デジタルガジェット」と同じである。
ソフトウエアの力によって携帯電話やAV家電、メディアや交通など様々な産業を一変させて来た人材が今、調理家電の世界でも同じようにデジタル変革を起こそうとしている。調理家電の世界でも破壊的イノベーションを意味する「デジタルディスラプション」が起きる可能性は高い。
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