こうした巨大システムの更新作業を、Jenkinsが自動化している。PayPalが利用しているJenkinsのインスタンスは5000を超え、1日当たり3万2000回のビルド作業を実施し、1日当たり1000回のデプロイ作業をしている。テストの回数に至っては、1日当たり100万回にも達する。

 PayPalのデベロッパー・エクスペリエンス・チームを率いるディレクターであるMoied Wahid氏は「Jenkinsはソフトウエア開発者に自由を与えてくれただけでなく、ソフトウエア開発プロセスの可視化ももたらしてくれた」と語る。ソースコードのビルドやテスト、デプロイをJenkinsが担当することで、それらのログが記録されるようになったためだ。

プロセスの可視化によって、プロセスの改善が可能に

 Jenkinsの開発元であるCloudBeesは、Jenkinsのパイプラインの実行状況を可視化する「Blue Ocean」というツールもOSSとして公開している。ユーザーはBlue Oceanを使用することで、ビルド作業は様々な環境ごとに用意したテスト、サーバーへのデプロイが完了したかどうかをGUIで確認できる(写真3)。

写真3●Blue OceanでJenkinsのパイプラインを可視化した画面
写真3●Blue OceanでJenkinsのパイプラインを可視化した画面
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 またBlue Oceanは、ユーザーがGUIから設定したJenkinsに関する設定内容を、パイプラインのコードとして保存する機能も備えている。Jenkinsに習熟していない初心者ユーザーでも、パイプラインのコードを作成できるようになる。川口氏は、「Jenkinsを全社展開すると、様々なスキルレベルのユーザーがJenkinsを利用するようになる。誰にでもJenkinsを利用可能にするのがBlue Oceanだ」と説明する。

 CloudBeesはJenkins World 2017で、Jenkinsのログを分析することで、ユーザー企業の開発プロセスが抱える問題点を見つけ出し、改善点を提案するサービス「CloudBees DevOptics」を発表している。CloudBeesは企業向けのサポートサービスなどを付加した有料版の「Jenkins Team」や「Jenkins Enterprise」を販売しているが、DevOpticsはそれと同様の付加サービスの一つとなる。

 CloudBeesは2017年3月にテクマトリックスと提携して、日本でのJenkins Enterpriseなどの販売を開始している。またCloudBeesは今回、中国Huawei Technologiesと提携し、Huaweiの子会社である中国ChinaSoft Internationalが、Jenkins Enterpriseの中国での販売を手がけることも発表した。

日本企業でJenkins導入が進まない理由は?

 CloudBeesの川口氏によれば、Jenkinsの導入はPayPalのような米国企業だけでなく、ドイツなど欧州企業も熱心で、独Boschや独BMWなどもJenkinsの大規模導入を進めているのだという。しかし日本企業におけるJenkinsの導入は、米国や欧州に比べると遅れ気味だ。

 日本の事業会社がソフトウエア開発を外注する傾向が米国企業や欧州企業より強いことが、その背景にあるようだ。事業会社がソフトウエア開発プロセスを自社でコントロールできていない状況では、Jenkinsを全社導入したり、開発プロセスを改善したりするのは難しい。

 またソフトウエア開発を受託するシステムインテグレーターの社内でも、ソフトウエア開発環境や開発プロセスは顧客企業ごとにバラバラであるため、システムインテグレーター社内で開発プロセスを標準化するのも困難だ。

 「米国や欧州では、ソフトウエアを自社で開発する事業会社がJenkinsを導入して、ソフトウエア開発の生産性向上に全社的に取り組んでいる。このままでは、日本企業におけるソフトウエア開発の生産性が、他国と比べて低いままになるのではないかと懸念している」。川口氏はそう懸念を語る。

 日本人である川口氏が開発を始めたOSSであるJenkinsが、日本企業でだけ使われないという現状は、皮肉的であるだけでなく、悲劇的でもある。

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