彼らが辛うじてシリコンバレーにとどまろうとしているのは、それでも何らかの職があるからだ。1日に掃除や店員の仕事を三つ掛け持ちしてなっているような状態でも、収入のあてが見えないほかの土地へ引っ越すよりはいいし、何と言っても慣れ親しんだ土地だからだ。

年収1000万円超でも住めないサンフランシスコ

 そして、勝者しか住めないというその「勝者」もどんどんレベルアップしている。賃貸情報スタートアップの米Radpad(ラッドパッド)の調査によれば、米AirBnBや米Uber Technologiesなどサンフランシスコに本社を構えるテクノロジー企業に勤める中級、上級レベルのエンジニアは、会社に歩いて通える距離に住もうとすると、年収の50%前後を賃貸料に費やす必要があるという。

 東京の視点から見ると、歩いて通える距離に住むこと自体が贅沢に見えるかもしれない。しかし彼らは10万ドル(約1100万円)を超える年俸をもらっている。そうした彼らすら、サンフランシスコには住めなくなっているのだ。社会の下から順に、この土地の排他作用が働き、それが徐々に上のレベルにまで進んでいる。

 昔から高級住宅地はどの都市にでもあるから、シリコンバレーが超高級住宅地域になっても何もおかしくなという考え方もあるだろう。しかし新しい生活方法を提示するはずのテクノロジーが、社会面では昔からある問題を強化してしまっていることがとても残念なのだ。本来であれば今頃は、テクノロジーの力によってもっと違った未来を生きているはずではなかったのか。

テクノロジー企業に「倫理委員会」を

 スタンフォード大学政治科学部のロブ・ライシュ教授は、テクノロジー企業は市民社会を尊重する姿勢を示しているものの、「市民社会への責任ある関わりは、自社のプラットフォームへの人々の関わりを最大化しようとする努力とは一致しない」と述べている(2017年6月開催の「The Aspen Ideas」カンファレンスでの発言) 。

 GoogleやFacebook、米Apple、米Amazon.comといったプラットフォーム企業がますます強力になるにつれ、我々の生活はごく限られたプラットフォームの上だけで成り立ってしまうと感じられるほど、テクノロジー企業は大きな成功を収めている。しかしその一方で、社会にはひずみが出て、弱い立場の人々に大きな犠牲を強いている。

 ライシュ教授は、テクノロジー企業は病院にあるような「倫理委員会」を設けるべきだと提案している。一部のテクノロジー企業の巨大な影響力や生活への浸透ぶりを考えてのことだ。さて、テクノロジー企業はそんな変化を遂げられるだろうか。

 我々もシリコンバレーの繁栄の陰にある負の側面や、テクノロジーが我々個人の生活に及ぼしている作用に意識的になる時期に来ている。シリコンバレーへの関心は、それだけ成熟しているはずなのだから。