エンタープライズIT業界も、このような顧客の変化に対応していく必要があります。過去10年間において人々の生活がテクノロジーによって大きく変わったように、これからの10年間で人々の「働き方」や「産業の在り方」がテクノロジーによって大きく変わっていきます。そのような顧客の変化に対応していくためには、デザイン思考を実践して、IBMのやり方を全面的に変えていかなければならないのです(写真10)。

写真10●IBMのやり方を根本的に変えていると語るPowell氏
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デザイン思考を実践することで、何ができるようになるのでしょうか。

 最も重要なポイントは、デザイン思考によって顧客をより良く理解できるようになることです。デザイン思考は我々に、顧客を理解し、顧客が期待する体験を作り出す明確な方法論をもたらしてくれます。

IBMは社内デザイナーを2017年までに1500人にまで増やすと宣言しています。この数字の根拠は何でしょうか。例えば、シリコンバレーの有力ベンチャーであるKleiner Perkins Caufield & Byers(KPCB)は2015年に発表した「Design In Tech Report」によれば、デザインを意識しているスタートアップでは、デザイナーと開発者の比率が「1:4」~「1:5」であるといいます。このような比率を目指しているのでしょうか。

 部分的には「イエス」です。社内のデザインに関する文化を変えようとするなら、そのような比率は意識せざるを得ません。3年前、IBMにおけるデザイナーと開発者の比率は「1:50」でした。デザイナーはほかのデザイナーとは分断されていて、「社内デザイナーコミュニティー」のようなものはありませんでしたし、デザインに関する文化やデザインに関する原則なども存在しませんでした。

 1:50という比率は、あまりに少なすぎたのです。デザイナーは一人だけで優れた仕事はできません。我々はまずデザイナーを増やそうと考えました。もちろん、当社はスタートアップではありませんので、デザイナーと開発者の比率を「1:4」にするのは不可能です。しかしそれに近い比率は目指しています。

デザイナーの数を2012年の5倍に増やすのですから、デザイナーと開発者の比率は「1:10」ぐらいに近づきそうですね。それだけデザイナーの数が増えれば、デザイナーの役割も変わってきそうですね。

 スタジオでは、デザイナー、ビジネス担当者、エンジニアがチームを組んで、新しい製品の開発に当たっています。製品の企画の段階から、デザイナーが開発プロセスに参加しています。従来の開発の在り方とは大きく変わりました。

 古いやり方では、エンジニアは自分の考えに基づいて何かを作り、ビジネス担当者がマーケットの声をヒアリングし、エンジニアとビジネス担当者だけが協議をして、その製品がマーケットのニーズを満たすか否かを判断していました。デザイナーが呼ばれるのはこうしたプロセスの最終フェーズか、エンジニアとビジネス担当者によって判断が下された後だけでした。