IBMはなぜここまでデザイン思考に力を入れているのか。オースチンのスタジオで、Design PrincipalとしてIBMにおけるデザイン思考関連の取り組みを主導するDoug Powell氏に詳しく聞いた。

IBMがデザイン思考を全社的に実践するようになった経緯を教えて下さい。

 IBMは、デザインに関する長い歴史を有する企業です。実際に2016年は、当社が「Design at IBM」という取り組みを始めて60年目に当たります。60年前のCEOはThomas Watson Jr.氏で、優れた製品には優れたデザインが必要だという信念をIBMに根付かせました。彼はデザインとビジネスに関する真のビジョナリーでした。

 そして今、IBMにおけるデザイン思考の取り組みを主導しているのは、Ginni Rometty CEOです。Rometty CEOは4年前にCEOに就任した際に、「クライアントエクスペリエンス」、IBMの顧客(クライアント)に対して、IBMの製品やサービス、オフィス、ブランド、従業員などが与える「体験」こそが、IBMの未来を決めると考えました。そうした「体験」を素晴らしいものにできるのは誰でしょうか。それは「デザイナー」しかあり得ません。そこでRometty CEOは、デザイン、そしてデザイン思考にIBMの未来を賭けようと決断したのです。

 IBM Designを統括するGeneal ManagerにはPhil Gilbert氏が就任しました。彼は2013年からIBMのデザインに関する文化を、「人」「場所」「方法論」の三つの点で変えていく活動を始めています。

 「人」に関しては、デザイナーの積極的な採用を進めています。過去3年間にIBMは700人のデザイナーを新規雇用しました。このような大量のデザイナー採用は、デザイン業界において類を見ないものでした。

 「場所」に関しては、デザイナーがデザイン思考を実践できる「スタジオ」の整備を進めています。スタジオの作りは全世界共通で、オフィスのあらゆる壁面に移動式のホワイトボードを用意したり(写真6)、グループで気軽に話ができるキッチンを設けたりしています(写真7)。

写真6●移動式のホワイトボードが設置された仕事場
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写真7●スタジオの中のキッチン
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 「方法論」に関しては、IBMならではのデザイン思考の方法論を「IBM Design Thinking」として定式化し、全社員に実践させています。IBM Design Thinkingは、デザイナーや開発者、ビジネス担当者、セキュリティ担当者といったさまざまな分野の専門家がコラボレーションするための方法論です。さまざまな分野の専門家がデザイン思考の方法論を使って、「顧客の理解」「プロトタイプの開発とテスト」「顧客の観察」などを繰り返しながら、IBMの製品をより良いものにしようとしています。