特に、サン・バーナディーノ銃乱射事件の容疑者が持っていたiPhone以降の世代の製品では、Apple自身もユーザー個人のデータに本当にアクセスができなくなっているという。どんなに圧力をかけられても、Apple自身が何もできない状況だ。
個人の生活がスマートフォンにますます依存している現在、データをこうして保護するのは合点のいくことである。その一方で、犯罪や事件が起こった際に捜査当局が情報の宝庫にアクセスできなくなってしまうというのは、ひどいジレンマである。ここでもテクノロジーでもっといい解決法がないものかと思ってしまうが、その実態が分からない。
情報収集活動は暴露されたが、国民的な議論は進まず
Edward Snowden氏のがNSA(国家安全保障局)の情報収集を暴露して以降、テクノロジー企業は暗号化の取り組みを強化しており、それがこういう結果に行き着いているということだ。しかし国家にデータを渡せないと主張するテクノロジー企業の中は、ユーザーの個人情報を使って金儲けをしているところがある。その関係というか、矛盾の実態も、一般ユーザーにはよく分からないのだ。
今回の問題で、さらにことを分かりにくくしているのは、いろいろな要素が混線しているからである。「市民権」、「言論の自由」といった法律の概念が出て来る上、「全令状法」という18世紀に生まれた法律まで取り沙汰されている。また、両者の言い分に「裏口(バックドア)」という言葉が使われていて、これがストレートなテクノロジーの話に色をつけてしまうため、現実が見えにくくなる。こうした議論のための適切なボキャブラリー(語彙)も欠落しているだろう。
AppleのTim Cook CEO(最高経営責任者)は、専門家からなる委員会で国のセキュリティとデジタルプライバシー問題の関係を話し合うべきだと提案したところだ。これが最も希望のある解決策になるだろう。
FBIや国家はもはや信頼のおけない対象になっていて、対するテクノロジー企業は、この数年間で行き着いたスタンスで硬直化している。委員会の議論の過程で、混線がほぐされ、テクノロジーが分かりやすく解説され、セキュリティを語る際の明りょうな語彙が生まれてくるのを期待したい。
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