まず、そもそもテクノロジーにおいてなぜデザインが重要なのか。米New Enterprise Associates(NEA)のDayna Grayson氏は「ストーリー(物語性)が求められているから」という。物語とはとって付けたようなものではなくて、起業家が自社製品やサービスを説明する際に底流を流れるものだ。伝わるストーリーが話せるかどうかは、起業家が自社の製品を本当に理解しているかどうかにかかっているという。そして、機能だけでなくストーリーを見いだすためには、デザイナーの視点が必要になるというのだ。

 米True Ventures のJeff Veen氏は「苦痛を減らすという目に見えないデザイン」の重要性を指摘した。つまり使い勝手のことである。パソコンからモバイル製品に移行して、ユーザーは毎日多くの苦痛と格闘しているわけだが、それを軽減するのはデザイナーの役割だ。

 また「デザイン思考」などを利用して仕事をしてきたデザイナーは、ユーザーの気持ちがよく分かり、さらに開発で求められるイテレーション(プロトタイプをテストするという試行錯誤を繰り返して開発を進める方法)の方法論にも慣れているという点も挙げられた。

 ただし、現在のようなデザイン流行の中でデザインが行き過ぎになることもある。米Khosla VenturesのIrene Au氏は、「インタフェースのデザインに凝り過ぎて、製品自体が提供する特徴をユーザーが見逃すようなケースもある」と語った。ピクセルレベルの見え方に固執して、大きな絵が見えなくなることもデザイナーの危険性だという。

CEOによるデザイナーへの理解が不可欠

 スタートアップでデザイナーの能力がうまく発揮されるためには、CEO(最高経営責任者)などトップの理解が求められると、登壇者全員が口をそろえた。デザイナーが創業者ならば、その会社のDNAの中にデザインが織り込まれていくが、そうでない場合はデザインの視点が開発の早い段階から加わるようにすることが重要とした。

 以前、John Maeda氏にKPCBでどんな仕事をしているのかを尋ねたことがある。それによると、出資するスタートアップに対してデザインの観点からアドバイスをすることはもちろん、必要なデザイナーを探してきたり、あるいは起業を考えてもいなかったデザイナーに創業者になるよう勧めたりすることだという。NEAでも、起業したいデザイナーのためのインキュベーションを行っているらしい。

 近年、シリコンバレーのテクノロジー業界がぐんとおしゃれになったのだが、スタートアップの戦略の一要素としてもデザインが注目されていることがよく分かったのである。

瀧口 範子(たきぐち のりこ)
フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、建築・デザイン、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』(共にTOTO出版)、訳書に『ソフトウェアの達人たち: 認知科学からのアプローチ(テリー・ウィノグラード編著/Bringing Design to Software)』(ピアソンエデュケーション刊)、『ピーター・ライス自伝』(鹿島出版会・共訳))がある。上智大学外国学部ドイツ語学科卒業。1996-98 年にフルブライト奨学生として(ジャーナリスト・プログラム)、スタンフォード大学工学部コンピュータ・サイエンス学科にて客員研究員。