Anovaよりも1年早い2012年にサンフランシスコで創業したSous Vide調理家電スタートアップの米Nomikuは、2017年に韓国サムスン電子からの出資を受けている。同社は2017年から真空調理用の食材宅配サービスも開始している。下ごしらえ済みの食材が真空パックされて届くというもの。真空パックにはRFIDが埋め込まれていて、調理器のセンサーにRFIDを読み込ませるだけで、適切な温度と調理時間がセットされる。

 調理家電スタートアップの強みは、レシピやソフトウエアだ。画像認識AIオーブンやSous Vide調理家電は、食材を調理する温度や加熱時間を極めて厳密に管理できる。飲食業界では温度と加熱時間を厳密に管理した調理法を「TT調理」と呼ぶ。調理家電スタートアップはTT調理に基づくレシピを自ら開発し、スマホの専用アプリにそうしたレシピを配信。スマホから調理家電を適切にコントロールする仕組みを作った。

 従来からある「人間向け」に書かれたレシピは、「中火」「強火」といったアバウトな表現で火加減が記述されており、レシピを忠実に再現するのは難しかった。従来よりもレシピに忠実で、美味しい料理を簡単に作れることが、スタートアップが提供する新しい調理家電の最大のメリットなのだ。

シリコンバレーには起業家を支える環境がある

 なぜ今、シリコンバレーでハードウエアの起業が増えているのだろうか。近年、中国や台湾のODM(相手先ブランドによる設計・生産)事業者が台頭し、ハードウエアを開発し、量産する敷居が大きく下がったことは間違いない。それに加えて、ハードウエア起業を目指す人々を支援する「エコシステム」がシリコンバレーに存在するからこそ、この地でのハードウエア起業が増えているのだ。

 起業家を支援するエコシステムとは、ハードウエアスタートアップに出資するVCや、スタートアップを指導する「アクセラレーター」などのことだ。例えばサンフランシスコにある「HAX Accelerator」は、シリコンバレーのベンチャーキャピタルである米SOSVが運営するハードウエアスタートアップのアクセラレーターで、前述のNomikuや商品陳列棚をチェックするロボットの米Simbe Robotics、商品配達ロボットの米Dispatch Roboticsなどを輩出する(写真3)。

写真3●サンフランシスコにある「HAX Accelerator」
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 HAXの源流は、SOSVが2012年に中国上海で開始した「中国加速」というアクセラレーターだ。中国加速はソフトウエアやサービスを対象とするアクセラレーターだったが、そのハードウエア版としてHAXを中国深センに設立。2015年からサンフランシスコにも拠点を設けている。