現時点のPanasonic βは、デザイン思考を推進する大企業によく見られる「出島」組織だ。パナソニックのシリコンバレーオフィスの一角に「スタジオ」を設け、パナソニックの社内カンパニー4社から、合計29人のエンジニアやソフトウエア開発者、デザイナーを選抜。そこでデザイン思考やリーンスタートアップに基づく新しい方法論を実践させている(写真2)。彼ら彼女らが開発しているのは、新しい方法論の有効性を示す実例となる新規プロジェクト「HomeX」だ。

写真2●シリコンバレーにある「Panasonic β」のオフィス
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 HomeXの詳細は現時点では未公開だが、「住空間」に関する製品やサービスになるという。Panasonic βは2017年11月までに、製品やサービスの元となるアイデアを1293個生み出し、そこから81個のプロトタイプを開発してテストし、31個のハードウエアプロトタイプを作り、最終製品に近い「住空間プロトタイプ」を3個開発したという。

「上司ファースト」から「ユーザーファースト」へ

 「これまでは社内の根回しを重視する『上司ファースト』で仕事を進めてきた。Panasonic βには『ユーザーファースト』を最速で進める健全なプロセスがある」。Panasonic βで働くある従業員は、従来のパナソニックにおける製品開発プロセスと、デザイン思考などを取り入れたPanasonic βにおける同プロセスの違いをこう表現する。

 製品化に際しても、従来のパナソニックのように最初から数万個、数十万個のオーダーでの量産を目指すのではなく、数百個から数千個程度のオーダーで製品を作り、市場で実際に試しながら、より良い製品を生み出していく。製造プロセスでは3Dプリンターを積極的に採用。パナソニックのコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)部門である米Panasonic Venturesは2017年に、金属材料を使った3Dプリンターを開発する米Desktop Metalに出資している。こうした新しい技術がHomeXの量産に使われる可能性がある。

 Panasonic βの当面のゴールはHomeXの開発や改善を通じて、パナソニックがイノベーションを量産するために必要な新しい方法論を早期に確立することだ。方法論ができれば、それを全社展開することが次の課題になる。「今のパナソニックには36の事業部があるが、37番目の事業部を作ることがPanasonic βの目指すものではない。パナソニックの事業を再定義し、本業を変革する」。馬場氏はそのように語っている。