実用の部分を取り去り、美しさだけを抽出
思えば、江戸時代の絵画界の巨人、俵屋宗達は、扇絵を描く工房の主宰者だった。この展覧会では宗達派の屏風が1点展示されていたが、多くの扇面貼交屏風が骨を抜いた跡のある扇を貼り付けたものだったのに対し、宗達派の出品作に貼り付けられていたのは、骨のない扇面だった。おそらく、最初から屏風に貼り付けるために描かれたのだろう。もはや貼り付けられた扇からは実用の部分が取り去られている。扇絵の持つ美しさだけが抽出された例と見てよさそうだ。

開き具合や配置の角度も扇によって異なっており、制作した絵師は形の変化を意識して、扇の乱舞とでも言っていい状況を創出している。まさしく意図されたコラージュというべきだろう。コラージュの制作には、何を貼るのか、画面のどの部分にどう貼るのか、貼ったアイテム同士を調和させるにはどうすればいいのかなど、センスとともに深い思慮が必要になる。日本の絵師たちを刺激し、そうした技法の展開を生んだのも、扇ならではの特質と考えていいのではないだろうか。

◎東京展:2018年11月28日~2019年1月20日、サントリー美術館(東京・六本木)
◎山口展:2019年3月20日~5月6日、山口県立美術館(山口市)
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