「扇の発祥は日本。しかし研究は、実はあまり進んでいないんです」
東京・六本木のサントリー美術館で開かれている「扇の国、日本」展を担当した同館主任学芸員、上野友愛さんの言葉は、少々意外だった。正確な発祥は分からないらしいが折りたたむ構造を持つ扇はおそらく平安頃、日本で生まれた道具であり、日本の古美術の展覧会では骨を抜いた扇を屏風などに散らして貼り付けた「扇面貼交屏風」(せんめんはりまぜびょうぶ)を目にする機会が結構多くあったからだ。

理由について上野さんは次のように話す。
「扇は実用品なので使っているうちに傷む。捨てられやすくあまり残っていないのです」
コンパクトで便利でおしゃれな暑さ対策グッズとしての扇が、夏が暑い日本で重宝されたことは、想像に難くない。また現在の製品でもたいていの扇には絵が描かれたり美しい色が施されたりしている。
いにしえの時代にはすべてが手作りだったことを考えれば、歴史的に美術品と認められるような扇が少なからず制作されていたであろうことにも簡単に思いが及ぶ。そして、実際に相当数の扇が作られたにもかかわらず、多くは消費されてしまったというわけだ。一方、実用の部分を取り去って屏風などに貼り付けた「扇面貼交屏風」の例が多くあるのは、その美しさを鑑賞したい、そして残したいという思いが強く存在したことの証しである。

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