現代の孤立についての独自の見方

 ヨコハマトリエンナーレ2017のテーマ「島と星座とガラパゴス」をめぐるキーワードの中に、「孤立」という言葉があった。現代美術には社会的な問いかけを発する作品も多いが、社会と美術のつながりを強く模索するのは、芸術祭に際立った特徴でもある。

 別の展示室で会った鉛筆画の名手、木下晋は、近年は独居老人が増え、身近でもすぐには発覚しない孤独死の例が発生しているということを話してくれた。そして木下は、そんな問題への自らの思いを投げかけるかのように、両手を合わせた祈りの仕草を描いた高さ4メートルの大作の鉛筆画を展示していた。

鉛筆画の大作を出品した木下晋の展示コーナー(横浜美術館)
鉛筆画の大作を出品した木下晋の展示コーナー(横浜美術館)

 キャルタンソンの映像作品は、現代の孤立についての独自の見方を訴えている。人は一見ばらばらに生きているようでも、実は多くの人々と息を合わせて万事に臨むことが重要なのではないか、と。

 アンサンブルは、きわめて水準が高く、魂を揺さぶるような演奏をしていた。まるで同じ空間にいるかのようにお互いの呼吸を読みながらの演奏だったのである。たとえば、女性2人が3度の音程ではもるところがあったが、お互いの顔を見ないのになぜこれほど美しく合うのかと思うほど見事なハーモニーを奏でていた。

 むろん、優秀な演奏家たちがきちんとリハーサルをした結果には違いない。だが、この作品の試みは、そうしたスキルを超えた人間の、そして音楽の持つ根本的な力を感じさせた。

 現実の世界では国は様々に孤立している。日本とアメリカも然り。条約や対話でつながっているようでいて、お互いの顔を本当に眺められていると言い切れるのだろうか。しかしアンサンブルをしようという努力はできるのではないか。この作品は、そんなことをも教えてくれた。64分の大作だったが、なかなかこの部屋を去り難く、開場時間が終わってしまい、仕方なく作品の終わり間際と思われる映像を尻目に会場を後にした。

ヨコハマトリエンナーレ2017の会場の一つ、横浜美術館では、館内に入る前に正面入口付近で中国の美術家アイ・ウェイウェイの作品《安全な通行》や《Reframe》が見られる。この二つは、ギリシャのレスボス島にたどり着いた難民が着ていた約800着の救命胴衣や救命ボートを使った作品だ。「 難民問題の一端をリアルに表し、私たちの日常生活とつなげている」(同トリエンナーレのコ・ディレクター、三木あき子氏)という
ヨコハマトリエンナーレ2017の会場の一つ、横浜美術館では、館内に入る前に正面入口付近で中国の美術家アイ・ウェイウェイの作品《安全な通行》や《Reframe》が見られる。この二つは、ギリシャのレスボス島にたどり着いた難民が着ていた約800着の救命胴衣や救命ボートを使った作品だ。「 難民問題の一端をリアルに表し、私たちの日常生活とつなげている」(同トリエンナーレのコ・ディレクター、三木あき子氏)という

 近年、日本国内では隔年から3年に1度くらいのペースで芸術祭を開く地域が激増し、その数は数百に及ぶと言われている。もはやすべての芸術祭を一人で見て回るのは不可能だが、その一部を少なくとも十数年にわたって見てきた筆者が意義を感じたのは、“アートに何ができるか”を問う場を形成してきたことだ。通常の音楽会場では上演が難しいキャルタンソンの作品も、その可能性を示している。

ヨコハマトリエンナーレ2017〜島と星座とガラパゴス
2017年8月4日〜11月5日、横浜美術館・横浜赤レンガ倉庫1号館・横浜市開港記念会館