動的な場面のこれぞという一瞬を再現

 「決定的瞬間」という言葉を使うべきだろうか。動く瞬間の一瞬を切り取ったという点では《皇国二十四功 佐藤四郎兵衛忠信》も秀逸だ。写真とは違って自由な描写が可能だと言っても、そもそもすぐれた動体視力がなければ、動的な場面のこれぞという一瞬を紙の上に再現することはできないだろう。

月岡芳年《皇国二十四功 佐藤四郎兵衛忠信》(明治14年[1881年])
月岡芳年《皇国二十四功 佐藤四郎兵衛忠信》(明治14年[1881年])

 明治19年に制作されたという《月百姿》というシリーズが結構な件数、展示されていた。月のある場面の一つ一つが機知に富んでいる。このシリーズで注目すべきなのは、明治半ばという浮世絵が廃れてしまった時期に100枚ものシリーズが出版されたことである。もちろん出版物として人気があったわけだが、だからこそ芳年は「最後の浮世絵師」と呼ぶにふさわしい事績があったといえるのである。

月岡芳年《月百姿 玉兎 孫悟空》(明治22年[1889年])
月岡芳年《月百姿 玉兎 孫悟空》(明治22年[1889年])

 なお、この展覧会の出品作263点はすべて、日本画家の西井正氣さんが収集したコレクションという。芳年のように評価が途上である画家については作品の発掘が進みにくく、おそらく学者の力だけでは研究にも限界がある。こうした収集家がいるからこそ、画業を顕彰できるのである。ちなみに、芳年の収集を西井さんが始めたのは半世紀以上も前にさかのぼるという。その慧眼ぶりにも感心させられた。

月岡芳年《風俗三十二相 うるささう 寛政年間 処女之風俗》(明治21年[1888年])<br />美女の頭が下を向いた構図は実に気が利いており、猫を心底かわいがる感情がにじみ出ている
月岡芳年《風俗三十二相 うるささう 寛政年間 処女之風俗》(明治21年[1888年])
美女の頭が下を向いた構図は実に気が利いており、猫を心底かわいがる感情がにじみ出ている

「芳年―激動の時代を生きた鬼才浮世絵師」

2018年8月5日~9月24日、練馬区立美術館(東京)

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