藤田嗣治(レオナール・フジタ、1886~1968年)は、「猫の画家」と呼ぶのにふさわしい顔を持つ。フランスで成功した1920年代には人気のあった女性像の片隅にしばしば猫をちょこんと座らせ、ときには猫のみの小品も描いた。「猫十態」というタイトルで描いた、猫尽くしといってもいい版画のシリーズもある。第2次大戦後のフランスでは美猫コンテストの審査員などもやっていたようだ。
さて、東京都美術館では画家の生涯を一望する「没後50年 藤田嗣治展」が開かれている。特に猫の作品ばかりを集めたコーナーはないのだが、描かれた猫を見つけながら会場を歩くのは比較的容易だ。1920年代の作品はもとより、1940年代後半に日本を追い出されるように出国してフランスに永住した後も、折りに触れて猫をモチーフにした絵を描いているからだ。変わり種としては、《猫の聖母子》というタイトルで擬人化した猫を絵付けした陶磁器なども出品されていた。
そんな中で、改めて観察し直した猫の絵がある。1940年の《争闘(猫)》という作品だ。14匹の猫が激しく争い合っている。もともと獰猛な性格を秘め持っている猫は確かに現代の街なかでも争い合うことがある。だが、これほどの集団での「戦闘」が実際にあるのかどうかについては、筆者は寡聞にして知らない。

しかも描かれた猫たちの闘いは相当激しいらしく、多くは宙を舞っている。実際に猫を見ていて運動能力がうらやましくなることは多々あるが、現実の光景とは思えない。
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