螺旋が支配する構図

 この展覧会の会場である国立新美術館で6月17日に開かれた、チェリストの新倉瞳さんとマリンバ奏者の塚越慎子さんによるデュオ・コンサートを聴いた。「ダンスの場面を描いた《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》などの絵画から音楽を想像して演奏する内容を決めた」という新倉さんたちが選んだのは、ドビュッシーやラヴェルの楽曲や、フランスのシャンソンなどのほかに、踊りが盛んな東欧ユダヤ系の結婚式で演奏されるクレズマー音楽などをアレンジした曲目。絵は何を伝えるかという点でも興味深い内容だった。

コンサート「新倉瞳(チェロ)~ルノワールの美術と音楽~」
(2016年6月17日、国立新美術館 1階ロビー、チェロ=新倉瞳、マリンバ=塚越慎子)演奏風景。チェロとマリンバの組み合わせの室内楽は珍しい。この演奏会のために編曲をし、本番に臨んだそうだ
《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》
(1877年、第3回印象派展出品作、オルセー美術館蔵 この作品は、一般には《ムーラン・ド・ラ・ギャレット》と呼ばれている)展示風景

 《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》にも、明らかな造形志向がある。画面を螺旋(らせん)が支配しているのだ。画家の宮廻正明さんから、以前「名画にはしばしば螺旋が顔を出す」と聞いたことがある。レオナルド・ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》から竹内栖鳳の《班猫》にいたるまで、画面から螺旋を見出すことのできる名画は実際に多い。

 《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》の中にある螺旋は、一目瞭然だろう。中央の帽子をかぶった女性を起点にすぐ下の椅子に座った女性、右側で背を向けて腰掛けている男性から子どもと思しき女性の顔、踊っているカップルなどをたどっていけば発見できる。螺旋は、画面に動きをもたらし、描かれた舞踏に現実味を与えている。

 《浴女たち》に戻れば、こちらを向いた裸婦の顔を起点に左腕を通って手前に寝そべる裸婦の胴体から顔、画面左上の樹木とたどると螺旋が見える。ルノワールが描き出したかった世界は、螺旋を伝って絵の外にあふれ出てくる。おそらくこの絵は、最晩年のルノワールの理想郷だったのだろう。

展覧会情報
オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展
2016年4月27日~8月22日、国立新美術館(東京・六本木)