一見ふざけて描いたとも思える寄せ絵

 アルチンボルドが描いた寄せ絵の趣向は、一枚一枚違う。会場を歩くと、構成するものの分野が違う作品を次々に見ることになる。さらに驚かされるのは、アルチンボルドが神聖ローマ帝国の皇帝が重用した宮廷画家だったことだろう。一見ふざけて描いたとも思えるこれらの寄せ絵は、皇帝や貴族たちに受け入れられていた。花の寄せ絵《春》は、皇帝になる前年(1563年)のマクシミリアン大公に捧げられたものという。

 皇帝をはじめとする当時の宮廷の人々の間には、こうした表現を肯定的に受け止め、楽しむ空気があったのだろう。ただ、アルチンボルドの技術と表現に、彼らに対する大いなる説得力があったことを忘れてはならない。注目すべきは、描かれたものの極めて緻密な再現性である。図版で見ているとアイデアばかりに注意がいくが、油彩で描かれた絵肌を間近に見ると、その〝匠ぶり〟とでもいったものにぐいぐいと引き込まれるのである。

 たとえば《水》と同じ「四大元素」シリーズの1枚、《大地》という作品をじっくり観察する。鹿や象、羊など細かく描かれた一体一体が、極めて高いクォリティーの写実性で再現されている。ただ細密に描かれているだけでなく、印影表現が巧みで立体感が際立っている。しかも、全体で顔を構成するために個々の動物が歪めて無理な形で描かれているということがない。全体を見てアイデアに驚き、細部を観察すると描写力に圧倒される。アルチンボルドは、ただのアイデアマンではなかったのである。

ジュゼッペ・アルチンボルド《庭師/野菜》(油彩、板、クレモナ市立美術館蔵 Sistema Museale della Città di Cremona - Museo Civico "Ala Ponzone" / Museo Civico "Ala Ponzone" - Cremona, Italy)
ジュゼッペ・アルチンボルド《庭師/野菜》(油彩、板、クレモナ市立美術館蔵 Sistema Museale della Città di Cremona - Museo Civico "Ala Ponzone" / Museo Civico "Ala Ponzone" - Cremona, Italy)

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