イタリア出身のジュゼッペ・アルチンボルド(1527〜93年)は、驚きの画家である。動物や植物などをたくさん集めてパーツとして組み合わせる「寄せ絵」と呼ばれる手法で、人物の肖像画を描いている。例えば「四季」と題された連作のうちの《春》という作品に描かれた人間の横顔は、花を集めてできている。

しかも、描かれた花の種類は実に80を超えるという。まさに“春爛漫”。イタリア人が四季に繊細な感情を持っていることに共感を覚える一方で、なんという発想だろうと感心する。東京・上野の国立西洋美術館で開かれている「アルチンボルド展」では、日本では普段ほとんど実物を目にする機会のないこの作家の作品を、関連作品と合わせてかなりごっそり見ることができる。アルチンボルドの油彩画は世界でも数十点しか残っていないというが、同展ではそのうちの約10点が出品されている。

「四大元素」シリーズの一枚、《水》という作品では、魚類やタコ、カメなど水に住むたくさんの生物を寄せ集めて人間の顔を描いている。カエルやタツノオトシゴ、さらにはサメなどもおり、むしろ普段鮮魚店で目にするような魚以外の生物のほうが多い。

ランダムに生き物の絵をはめているだけではない。ウニのとげは王冠を表しているという。いわば皇帝の姿を象徴しているわけだ。さらに気が利いているのが、人物が首にかけている真珠のネックレスだ。真珠は貝から取れるから、水の産物ということで同種のものをモチーフにするコンセプトには合っている。しかし、寄せ集めて作られた人物はそもそもが空想の造形だ。リアルと空想が水というキーワードで合体しているのも結構面白いことだと思う。
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