東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「猪熊弦一郎展 猫たち」は、昭和を代表する画家の一人、猪熊弦一郎(1902〜93年)が描いた猫の絵を集めた展覧会だ。作品の多くを貸し出した丸亀市猪熊弦一郎現代美術館の古野華奈子学芸員によると、「正確に数えたわけではないが、会場に並んだ171点の作品の中に描かれた猫の数は1000匹を超える可能性がある」という。猪熊は、幕末を生きた浮世絵師の歌川国芳や20世紀前半から中頃にかけて特に欧州で大きな足跡を残した洋画家の藤田嗣治(レオナール・フジタ)ら猫の絵をたくさん残した画家たちに劣らぬ猫好きだったと見てよさそうだ。

「にらみ合う猫たち」のコーナーから[禁無断転載]

 では猪熊は一体どんな猫を描いているのか。見て驚くなかれ。まるでギャグマンガにでも出てきそうなゆるい猫を、実にたくさん描いているのである。もう一度断っておくが、猪熊は昭和の日本を代表する画家の一人だ。写実に近い作風、平面性の追求、抽象への傾斜など、実に多彩な作風を持つチャレンジングな芸術家だった。

会場では素描をたくさん見ることができる[禁無断転載]

 その猪熊が、なぜここまでゆるい、まるで落書きといってもいいような絵を描いたのだろうか。展覧会を見渡すとよくわかるのだが、猪熊はゆるくない猫も実はたくさん描いている。やはり猫というモチーフでも、クリエイティブな試みを絶え間なくしていたのである。一方で気づくのは、この展覧会の出品作に素描の類が多いことである。本格的な油彩画などを描く前に、まず猫が日常的なスケッチの対象であったことに着目してみよう。

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