ベラスケスが描いた王太子の眼差し

 ヤン・ブリューゲル(父)の監督下で複数の画家が描いたという《視覚と嗅覚》は、極めて豪華な絵だ。「視覚」を表すのは中央で絵を見ている女性、そして画中画として描かれたたくさんの絵画である。人物や風景をテーマにした絵や彫刻がさまざまな表現を展開していることで、この絵自体も極めて変化に富んだ場面を創出しているのである。

ヤン・ブリューゲル(父)、ヘンドリク・ファン・バーレン、ヘラルト・セーヘルスら《視覚と嗅覚》(1620年頃 マドリード、プラド美術館蔵 © Museo Nacional del Prado)
ヤン・ブリューゲル(父)、ヘンドリク・ファン・バーレン、ヘラルト・セーヘルスら《視覚と嗅覚》(1620年頃 マドリード、プラド美術館蔵 © Museo Nacional del Prado)

 描かれた花とその香りを嗅ぐ女性は「嗅覚」を表す。じっと見ていると、まさに香ってくるような気分になる。一方、こうした風景が実際にあったかどうかは、もはや問題ではない。この極めて豊かな世界に身を浸すことが、絵なら可能なのである。おそらく多くの人はこの絵を見た経験がなければ、こうした世界の存在も知ることがない。絵は人々の想像力を喚起するうえで、とても重要な役割を果たすのである。

 最後に、やはりこの展覧会の目玉であるベラスケスの《王太子バルタサール・カルロス騎馬像》を鑑賞しておこう。描かれているのは、スペインの王位を継ぐはずだったのに実現することなく亡くなってしまった王太子。5~6歳の頃の姿だという。

ディエゴ・ベラスケス《王太子バルタサール・カルロス騎馬像》(1635年頃 マドリード、プラド美術館蔵 © Museo Nacional del Prado)
ディエゴ・ベラスケス《王太子バルタサール・カルロス騎馬像》(1635年頃 マドリード、プラド美術館蔵 © Museo Nacional del Prado)

 この年齢で本当にこれほど優雅に馬を乗りこなせたかどうかというのは、おそらく問題ではない。馬の描写を含めてあまりにも堂々とした風体、曇りのかけらもない王太子の眼差し、そして鮮やかな背景。王太子は王家の期待を一身に集めていたといい、画家はその意思を実に巧みに描き出しているのである。ここにも、画家の造物主たる側面が表れていると見ていいのではないだろうか。

展覧会情報

日本スペイン外交関係樹立150周年記念 「プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光」
【東京展】国立西洋美術館(東京・上野)、2018年2月24日~5月27日 
【兵庫展】兵庫県立美術館(神戸市)、2018年6月13日~10月14日(兵庫県政150周年記念事業)

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