日本人の美術好きは、世界の水準をはるかに超えている。
ニューヨークの近代美術館に行っても、パリのルーブル美術館に行っても、東京で日常的に開かれている美術展ほど混んでいることはめったにない。東京の美術展で絵画を堪能するのは大変なのだ。
でも、見所とポイントを教えてくれる「あなたのキュレーター」が居たら、どうでしょう。
「あーとカフェ」では、「日経アート」編集長を務めた美術ジャーナリストの小川敦生氏が、現在開催中の美術展で見ることができる珠玉の作品をご紹介します。
あなたの知らなかった“目から鱗が落ちる”作品に出会えるかもしれません。
シリーズ
小川敦生のあーとカフェ

完結
37回
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新聞の正体を暗示する吉村芳生の“怪作群”
筆者は以前新聞記者を務めたことのある身だからか、記事を読むこと以外の用途で紙の新聞が役立っている場面に遭遇して、思わずほくそ笑むことがある。
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扇がもたらしたあまりに優美な日本のコラージュ
「扇の発祥は日本。しかし研究は、実はあまり進んでいないんです」。東京・六本木のサントリー美術館で開かれている「扇の国、日本」展を担当した同館主任学芸員、上野友愛さんの言葉は、少々意外だった。
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“血みどろ絵”の画家、月岡芳年の真の力を見る
武蔵坊弁慶と牛若丸が京都の五条大橋で戦う場面を描いた錦絵《義経記五條橋之図》。弁慶が実に強そうだ。牛若丸はその攻撃を身軽にかわす。
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闘う猫の絵で思い知る藤田嗣治の“巧み”
藤田嗣治(レオナール・フジタ、1886〜1968年)は、「猫の画家」と呼ぶのにふさわしい顔を持つ。女性像の片隅にしばしば猫をちょこんと座らせ、ときには猫のみの小品も描いた。猫尽くしといってもいい版画のシリーズもある。
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縄文土器の美術センスを呼び起こせ
考古学の資料として扱われていた縄文土器に美術品としての“美”を見出したのは、美術家の岡本太郎だった。1950年代に美術雑誌に寄稿したエッセイで縄文土器の美を論じたのだ。
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ピカソ作品の下層に見つかった新聞記事の謎
ピカソと新聞紙の関係をめぐる大変興味深い記者発表があった。発表者はポーラ美術館。20代前半のピカソがバルセロナで描いたとされる油彩画の表面の油絵の具の層の下に、当時の新聞に書かれていた文字が検出されたというのだ。
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“音”で鑑賞者の情感に訴えた尾形乾山の絵画
17〜18世紀に京都を中心に活動した尾形乾山。根津美術館では「光琳と乾山」と題した企画展が開催されており、兄・尾形光琳の作品と一緒に、これまであまり見る機会がなかった乾山の絵画作品が多数出品されていた。
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猪熊弦一郎の描く猫はなぜゆるいのか
東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「猪熊弦一郎展 猫たち」は、昭和を代表する画家の一人、猪熊弦一郎(1902~93年)が描いた猫の絵を集めた展覧会だ。
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磔刑のキリストの前で画家は何をしているのか
東京・上野の国立西洋美術館で開かれている「プラド美術館展」には、ベラスケスなどの様々な作品がお目見えしている。そこで極めて興味深い作品に出合った。画家の姿を画面に登場させた宗教画である。
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仙人のような画家、熊谷守一は理系男子だった
東京国立近代美術館で開催中の「没後40年 熊谷守一 生きるよろこび」展。企画を担当し、準備を進めていた同館の蔵屋美香企画課長から、以前こんな言葉を聞いたことがある。「熊谷守一は理系男子だったんです」
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雨を愛おしい存在にした絵画
ふだんはうっとうしい雨を愛おしいもののように感じさせてくれる絵画作品と出合った。山種美術館で開かれている「川合玉堂」展の出品作《夏雨五位鷺図》である。
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運慶は名ディレクターだった!?
東京・上野の東京国立博物館平成館で開かれている「運慶」展が人気を博している。主催者の発表によると、会期が始まって約1か月で20万人の動員数を記録したそうだ。
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世界の画家の手本になった『北斎漫画』
版画にも肉筆画にも数々の名作を残した江戸時代後期の浮世絵師、葛飾北斎。世界的に知られることになったきっかけは、明治時代に入って大量の浮世絵版画が欧米に流出したことにあった。
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尾形光琳と酒井抱一をめぐる新しい愛の“発見”
京都の尾形光琳に江戸で私淑したことで知られる江戸後期の2人の絵師、酒井抱一と鈴木其一の作品を中心に構成した「江戸の琳派芸術」展が、東京・日比谷の出光美術館で開催中だ。
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横浜で音楽の真価を知らしめるアートに出合う
横浜市で開催中の芸術祭「ヨコハマトリエンナーレ2017」の会場で、音楽の真価を知らしめてくれる作品に出会った。横浜赤レンガ倉庫1号館で展示されているアイスランドの美術家ラグナル・キャルタンソンの作品《ザ・ビジターズ》だ。
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セザンヌの目を通して山を見る
少し前に、「セザンヌと過ごした時間」と言う映画を試写会で見た。フランス19世紀後半の美術史に大きな足跡を残した画家ポール・セザンヌの生涯を、文豪エミール・ゾラとの交友を核に据えて描いた作品だ。
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ジャコメッティはいったい何を見たのか
アルベルト・ジャコメッティの彫刻は、作品の大小にかかわらず小枝のように細い印象を与える。芸術が破天荒な創造に向かった近代以降の個性的な表現の一つであることには間違いないが、やはり不思議である。
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富士山に蒸気機関車~幻の画家不染鉄と再会する
「富士山を描いた明治以降の日本画で、近代という時代を感じさせるものを見たことがほとんどなく、新鮮な印象を受けた」。東京ステーションギャラリーで開かれている「不染鉄(ふせん・てつ)展」を見に行った知人の言葉である。
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単なるアイデアマンではなかったアルチンボルド
イタリア出身のジュゼッペ・アルチンボルドは、驚きの画家である。動物や植物などをたくさん集めてパーツとして組み合わせる「寄せ絵」と呼ばれる手法で、人物の肖像画を描いている。
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禅寺が育んだ雪村の「奇想」とは
「雪村(せっそん)になぜこんなに個性的な表現が生まれたのか、理由ははっきりとは分かっていません」。東京藝術大学大学美術館で開催中の「雪村」展の企画を担当する同館の古田亮准教授はこう話す。桃山時代の画家、雪村の表現を一言で…
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