人的資本経営時代において、人材戦略をいかに経営戦略と連動させていくのか。日本企業の課題や、なすべき人事施策について聞く本連載。第1回はWHI Holdingsの最高経営責任者(CEO)、安斎富太郎氏。傘下の事業会社のWorks Human Intelligenceは、大手法人向けに統合人事システム「COMPANY」を提供する。数多くの企業の人事施策やシステムに向き合ってきた経験から感じた日本企業の人事部門における課題とは。人材戦略としての社員のエンゲージメント向上や自律的キャリア構築についても聞いた。

(聞き手は日経ビジネス副編集長、鈴木陽子)

安斎富太郎(あんざい・とみたろう)氏
安斎富太郎(あんざい・とみたろう)氏
WHI Holdings 代表取締役最高経営責任者(CEO)。慶応義塾大学経済学部卒業後、日本IBMに入社。25年間所属し3年間の米国本社勤務を経て、デル法人企業日本代表、SAPジャパン代表取締役社長、アルテリア・ネットワークス代表取締役社長兼CEOを歴任。2020年より現職。(写真:鈴木愛子)

人事部は経営視点を持とう

人的資本が重視される時代において、日本企業の人事部が根幹に据えるべき考え方は何だと思いますか?

WHI Holdings 最高経営責任者(CEO)安斎富太郎氏(以下、安斎氏):今の日本の人事部は、社員の労務管理や給与計算などのいわゆる人事業務の処理に追われています。なぜなら人事制度や給与体系が欧米に比べて複雑になっているからです。それをいかに効率的に処理するかで精いっぱいで、その先の「今いる人材をどう生かすか」ということを考える余裕がありません。まずは人事部をより経営の視座に上げていく必要があります。

 会社目線の人事から個人目線の人事に変えることも必要です。日本はまだ「就社」という考え方があり、基本的には個人より会社全体を優先して動いています。しかしこれからは、会社に所属しながらも自律的に働くという意味で、「就職」の時代になることを意識し、目線を変化させることが必要です。

どのような解決策が考えられるのでしょうか。

安斎氏:我々は人事システムを提供しているのでその視点でお答えしますと、人事業務については、人事システムを導入するなどして負担を軽減できると思います。それによって人事部に時間的余裕ができ、人的資本経営について議論をすることができるのではないでしょうか。

 個人目線の人事への切り替えについても、人事システムで会社目線と個人目線を連動させることが必要だと思います。

 例えば、リクルーティングは会社目線では「採用」ですが、個人目線では「職選び」、会社目線での「タレントマネジメント」は、個人から見れば「キャリアパス」でもあります。企業目線の「採用」「タレントマネジメント」のシステムはすでにありますが、個人目線の「職選び」「キャリアパス」として管理できるシステムとの連動も求められるでしょう。当社はここの開発にも注力しているところです。

視点を変える必要のある人事部において、どんな人材が必要とされるのでしょうか。

安斎氏:重要なポイントが3つあります。1つは、人事業務をこなす「労務のプロ」から「企業家」になっていく必要があります。社会的な要請や、企業が進むべき道について経営者的な見方ができるような人材が求められます。

 2つ目のポイントは、「人生をいかに生きるか」という人生観を持っていること。社員はいかに会社内を遊泳していくかという処世術のようなものが求められるところがありますが、処世術よりも人生観が大切だと思います。特に人事部の人材は、自分なりの人生観を持っていて、それを基にして社員にアドバイスや対処法を教えられることが求められます。

 3つ目は、人の短所よりも長所にフォーカスできることです。日本人は、スター(Star)のとがっているところを、「丸くなれ」と削って、ムーン(Moon)にしてしまいがちです。そうではなく、スターをサン(Sun)にしなければなりません。突出しているところを削られた月か、凹んでいるところを伸ばした太陽かでは、同じ丸でも最終的な大きさが違います。欠点と思えるようなとがった部分は長所の裏返しの場合がありますから、残しておいてもいいのです。減点主義ではなく、「出る杭(くい)を伸ばす」発想を持つ人が求められると思います。

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