経営者やリーダーに求められる物事の捉え方、アイデアの生み出し方、ビジネスに欠かせない思考方法を、グロービス経営大学院の教員が重要なフレームワークから体系的に紹介していく当連載。今回は「デザイン思考」について解説する。「デザイン思考」は、ユーザーの視点で課題を捉える思考法で、既存の商品やサービスのブラッシュアップにたけた手法として知られており、従来のやり方での打開が難しい場合やアイデアの「頭打ち感」を解決するのに役立つ。

 モノ余りの時代、商品開発はかつてに比べて格段に難しくなっています。今求められているのは、ユーザーの気持ちをユーザー以上に理解し、彼ら自身も気づいていない潜在的なニーズを発掘することです。そのために有効なのが、ユーザーの視点に徹底的にフォーカスする「デザイン思考」です。

 これを実践し、シンプルなプロセスに落として世の中に広めてきたのが、米シリコンバレーに本拠を構えるデザインコンサルティングファーム「IDEO(アイディオ)」です。同社は、米アップルの初代マウスをデザインしたことで知られ、近年はデザイン思考をビジネスに応用するイノベーション・コンサルティングの分野でも高い評価を獲得しています。

デザイン思考の5つのプロセス

 

 今から解説するデザイン思考の「デザイン」とは、造形作品や意匠のような装飾的な意味合いではなく、仕組みをつくるという、より広義な意味で捉えてください。デザイン思考とは、一体どのようなものなのか。具体的に見ていきましょう。

 デザイン思考は、次のような5つのプロセスで構成されています。

  • 1.【共感】ユーザーを観察し、理解、共感する
  • 2.【問題定義】本質的なニーズや課題、問題点を特定する
  • 3.【発想】アイデアを量産し、最適なアイデアに絞り込む
  • 4.【試作】商品やサービスを試作する
  • 5.【検証】ユーザーテストを繰り返し、試作品のブラッシュアップを図る
デザイン思考の5つのプロセス
デザイン思考の5つのプロセス
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 ここからは、プロセスの項目ごとの大事なポイントについて説明します。

1.【共感】ユーザーを観察し、理解、共感する

 デザイン思考の最初のプロセスは「共感」です。共感は、さらに「読む」「使う」「聞く」「観察する」の4つに分解できます。それぞれ見ていきましょう。

読む
まずは事業領域や市場について徹底的にリサーチし、マクロおよび業界環境の理解を深めます。現状に至るまでの歴史的背景を理解することも有効でしょう。加えて、顧客を知るために、ありとあらゆる資料を読み込むことが必要です。

使う
既存の商品やサービスがある場合は、自らその商品やサービスを体験することも重要です。自身がそれを使い倒すヘビーユーザーとなり、誰よりも使用感を語れるようにならなければなりません。

聞く
顧客にインタビューやアンケートを実施し、顧客がどんな情報を知っていて、どんな情報を知らないのか、商品やサービスをどのように使っているのかを聞き出します。顧客の行動理由を理解することは非常に重要です。

観察する
顧客は商品やサービスへの不満に気づいていないことがほとんどです。それをあぶり出すには、顧客の行動をつぶさに観察することが欠かせません。写真や動画に収めるのもいいでしょう。購買行動などから、なぜそうするのかを徹底的に考えます。