どこか難しく縁遠いイメージを持たれることも多い現代アートを、分かりやすくひもといていく本連載。今回取り上げるのは「NFTアート」です。NFTアートとは、非代替性トークン(NFT)の技術を活用したデジタル作品のこと。世界で1つだけのデジタルアートとして、高い価値を持つのが魅力です。米ニューヨーク在住で、NFT作品をはじめとするデジタルアートのエキスパートである斯波雅子さんとともにその魅力と可能性を語ります。
(聞き手はANDART代表、松園詩織)

NFT元年を経た「現在地」とは
2021年は「NFT元年」と呼ばれ、英国の大手オークション会社クリスティーズで、ビープルのデジタルアート作品「Everydays: The First 5000 Days」が約75億円(当時)で落札されたことをきっかけに、NFT(非代替性トークン)がアート業界に大きな影響を与えた年でした。斯波さんから見て、NFT元年を経た現在のNFTについてどうお考えですか?

斯波雅子氏(以下、斯波氏): NFTは新しい手法だったため、21年以前ではその可能性について研究している人が少数でした。オークションハウスやギャラリーも「誰がどんなふうにNFTを扱うのだろう」と、慎重に見ている期間が長くありました。そもそもNFTは、ブロックチェーン技術を持つ仮想通貨業界のエンジニアたちによって発展した世界です。「アート思考」で始められたムーブメントではありません。それがちょうど今、アートとNFTの境目がなくなってきて、「アートとしてのNFT」がどう発展していくか、変化の段階にあります。NFTアートが爆発的に盛り上がったこともあり、これまでのアートとの落差が大きく見えるかもしれませんが、まだまだ黎明(れいめい)期といってよいと思います。
NFTアートが現代アートの領域に入ってきてからは、正解が見えない分、どう位置づけてよいかより難しい問題にもなっていますよね。現状、NFTアートにはさまざまな業界の人がアーティストとして参入できる状態です。これまで長い歴史を紡いできたアート業界からは、果たしてそれでよいのかという疑問も聞こえてきます。時には健全な分断、区別も必要かもしれません。
斯波氏:そうですね。NFTは物理的なアートとして独立して見ることもできますが、NFTの良さはクリエイターとコレクター、そしてコレクター同士のコミュニティが生まれることにあります。そこに意義があると思います。つまり、これまでのアートとは概念や物の捉え方が違うんですよね。例えば、村上隆さんのNFTプロジェクト作品「CLONE X(クローン・エックス)」では、村上さんの作品であるアバター(分身)にコレクターが自分で手を加えられるという、従来のアート作品では全く考えられなかった双方向な関わり方ができます。

確かに、コレクションすることを楽しむ「コレクタブル」や、SNS(交流サイト)のアイコン用画像「PFP、プロフィルピクチャー(Profile Picture)」のように、美術的価値を追求する「ファインアート」とは違ったカテゴリーでの楽しみ方が目立っています。アートの世界にデジタル勢が入ってきて無秩序になっているのではなく、お互い全く違うフィールドでありつつも、良い相互関係を築いていく可能性を秘めていますよね。
斯波氏:そうですね。物理的な作品とのタイアップを強くしたNFT作品や、ファインアートとして楽しんだり関わったりすることのできるNFTアートが、今後も多く出てくると思います。
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