企業の働きがいを調査・分析するGreat Place To Work Institute Japan(GPTW Japan)の代表・荒川陽子氏が働きがいのある企業の取り組みを紹介する本連載。今回は、京都市の医療法人社団翔志会 たけち歯科クリニックが登場。離職率が33%と業界平均の2倍以上だった同院だが、武知幸久理事長の取り組みによって、今は多くのスタッフが「早く仕事に行きたい」「仕事が楽しみ」と話しているという。自己理解を深めるツールを導入し、それをもとにコミュニケーションを活発化させるなど、同院独自の取り組みを紹介する。
「あなたにはついていけない」、右腕スタッフが退職
京都市内に2つの歯科医院を運営する医療法人社団翔志会 たけち歯科クリニックは、「痛みに最大限配慮した治療」にこだわり、インプラントの専門治療に定評がある。同院のホームページに掲載されている治療方針に共感して、遠方から2時間以上かけて通院する患者もいるという。歯科医師や歯科衛生士、ドクターマネジャー、滅菌スタッフ(滅菌・消毒作業の専任スタッフ)、受付スタッフのほか、患者対応をスムーズにするため、予約などの電話対応のコールセンタースタッフも配置。パートも含め、全部で60人ほどの組織だ。
武知理事長はスタッフの働きがいを高める取り組みを推進しており、GPTW Japanの「働きがいのある会社」ランキングにも2022年版から参加している。
武知理事長が働きがいを意識するようになったのは11年ごろ、「離職率の高さを改善したい」と考えたことがきっかけだった。
「当時、離職率が33%を超えていました。時間とコストをかけて採用しても、毎年3人に1人は辞めていく。医療・福祉業界の離職率の平均は約15%ですから、その2倍以上の離職率です。原因は、私のトップダウンですべてが決まってしまうことにありました。11年に医療法人を設立した直後のタイミングでもあり、業績を上げることを最優先に考えていました。それが経営者の役割だと思っていたので、スタッフの働きがいや組織の人間関係を大事にしていなかったのです。そのため、作業効率や職場環境の改善提案をしたい、あるいは自分の力をもっと発揮したいと考えるスタッフから辞めていきました」

そして11年に決定的な出来事が起こる。武知理事長が最も信頼していた幹部スタッフが退職したのだ。
「開院の時から右腕として一緒に仕事をしてきた幹部スタッフに『あなたにはもうついていけません』と言われました。それまでは、傷口に応急処置の絆創膏(ばんそうこう)を貼るような対応ばかりで、離職率の高さに本気で向き合おうとしてこなかった。しかし、さすがにここで自分に原因があると気付きました」
スタッフの働きがいを高め、「ずっと働きたい」と思ってもらうにはどうすればいいのか。武知理事長は自ら本を読んで勉強をするようになった。ここで取り入れたのが、ロバート・キーガンの「成人発達理論」やケン・ウィルバーの「インテグラル理論」だ。
ケン・ウィルバーが提唱するインテグラル理論の4象限の左側、職場のカルチャーや人間関係など、容易にコントロールできないものの質の高さを醸成することの大切さに気付いた武知理事長。そこから「働きたい改革」と名付け、スタッフが働きたくなる職場づくりに取り組み始めた。
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