採用難の時代、優秀な内定者を逃さず、かつできるだけ早く戦力の一員となってもらうために、企業はどんなフォローをすべきか。新卒採用のプロが最新トレンドとノウハウを指南する。

 内定者フォローというと、どんなイメージを持ちますか。企業の人事担当者やリクルーターに連れられ、学生では食べられない高級な寿司やステーキをごちそうになる――。そんな時代も今は昔。そうしたものに釣られないほど、今の学生はシビアに就職先を決めているのです。

 内定者フォローには2段階あります。第1段階は企業が学生に内定を出し、学生が承諾するかしないかのタイミング。企業は承諾を促すためにフォローします。正確にはこの時点では内定者ではなく、内定候補者です。

 第2段階は、内定を承諾した学生に対して、入社までフォローします。たとえ承諾したとしても、定期採用の入社日が翌年4月1日であればそれまでの期間は長い。最近は通年採用を実施し、窓口を常に開いている企業が増えています。このため、知らないうちに他社の選考を受け、気づけば内定辞退ということも珍しくありません。

 それだけでなく、既に内定を得ている優秀な学生を狙う会社もあります。内定者に「追加募集をすることになった。○○くんの周りでまだ就活していたり、内定はもらっていてもまだ決めかねていたりする友達で、うちの会社に合いそうな人がいたらぜひ紹介して」と声をかける。内定者の友達は、内定者と同じくらいの能力を持ち、価値観も近いことを期待してのことです。このように承諾後も内定者への「誘惑」は少なくありません。

複数の内定を持ち続ける理由

 それでも今までは10月1日に催される内定式に参加すると、もう内定辞退はないといわれていました。しかし、新型コロナウイルス禍の下では10月以降も辞退が目立つようになりました。景気動向の不透明感がその理由です。

 学生は「内定をもらった会社が倒産するかもしれない。そこまでいかずとも内定取り消しもあり得る」「この会社がダメでも、あそこがある」と、自己防衛の1つとして、複数の内定を持ち続けるようになったのです。こうした動きは、2008年秋のリーマン・ショック後に内定取り消しが多発したことで広がりました。

 また、コロナ禍特有の事情として、「オンライン就活」が一般化したために、選考時に内定者同士が会う機会が少なくなり、「ほかの内定者にはどんな人がいるのか。自分と波長が合うだろうか」という不安もあるようです。

 内定承諾書にハンコを押したとしても、学生側から取り消す分には法的に問題ありません。学生は皆、内定承諾後も辞退ができると知っているからこそ、決断を先送りにするのです。

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