当たり前の捉え方を捨て大胆な発想を
まず、メイヤスーの「思弁的実在論」では、世界は突然別様になり得る可能性があります。ということは、明日突然人間が住めないような気候になる可能性もゼロではない。悠長に構えていられなくなり、SDGs(持続可能な開発目標)が加速するかもしれません。
次にハーマンの「OOO」で捉えてみましょう。モノ同士の関係性で事態を捉えるので、気候変動も人間抜きに自然界のモノ同士で捉えなければなりません。宇宙と地球の関係もその一つでしょう。地球に人が住めなくなっても、それは単に宇宙における星の生成消滅といった物理現象の一つなのかもしれません。こうした発想が、他の惑星への移住という発想につながるのは言うまでもないでしょう。
3つ目のラリュエルの「非哲学」では、徹底的に外部を探します。気候変動の外部には、何があるのでしょうか。
例えば、本当は気候変動が問題なのではなく、私たちが今抱いている常識的な考え方こそが問題だという発想です。もしかすると、私たちの考え方や常識の変化で解決できるかもしれません。それは決して、気候変動にあらがうのではなく、「気候は変動する運命なのだ」という見方に切り替えるということ。例えば、気候変動が不可避なら、むしろ「段階的に人口を減らすなどの方策によって、環境負荷を低減する」といった逆転の発想です。
いずれも少し極端な結論に聞こえたかもしれませんが、それが哲学の特徴であり、面白いところです。まずは状況の捉え方を大きく変え、そこから現実的な具体策をひねり出せばいいのです。当たり前の捉え方をしていては、月並みな発想しかできません。ぜひ大胆に思考してみてください。
哲学者のプロフィール:
カンタン・メイヤスー(1967-)。フランスの哲学者。師でもある知識人アラン・バディウの後押しで名前の知られる存在に。思弁的実在論の象徴的存在とされる。著書に『有限性の後で』などがある。
グレアム・ハーマン(1968-)。米国の哲学者。専門は形而上学。思弁的実在論の潮流におけるプロデューサー的存在。オブジェクト指向存在論(OOO)を提唱。著書に『四方対象』などがある。
フランソワ・ラリュエル(1937-)。非哲学という概念の提唱者で、それを推進する運動で知られる。著書に『Philosophie et non-philosophie』(未邦訳)などがある。
有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。
※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。
この記事はシリーズ「哲学から学ぶ ビジネス思考力」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?